0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
サイダーの液体が、一つのエリアで止まった。場所は、スポーツ用品店だった。
「あ……」
吉良先輩は、自身の宝物がスポーツ用品店にあるとわかり、言葉を失っていた。何か、思うところがあるのだろうか。スポーツ用品店そのものが宝物ということはないだろう。宝物が、場所だったケースは今までもあった。だが、吉良先輩の故障した右腕から、僕でもおおよその見当はついた。僕はあえて、質問する。
「何か、気づいたことはありますか?」
「そっか。まだ、俺にとって宝物だったのか」
「吉良先輩?」
「悪い。ここからは一人で行動してもいいか?」
合流してから十分程度しか経っていないにも関わらず、解散することが心苦しいのだろう。僕としては、むしろ長期戦にならなくて良かったと思うくらいだが。
「もちろん。いいよね、五宝?」
「はい。僕は別に」
「助かる」
「良かったね。宝物があまり高価なものじゃなくて」
ししし、と佐賀先輩がからかう。吉良先輩は怒るわけでもなく、どちらかと言えば、泣きそうに見えた。けれど佐賀先輩に合わせて、笑って見せた。
「テニスのラケット、結構するんだぞ」
最初のコメントを投稿しよう!