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☆
「やっぱり吉良先輩は、テニスを諦めることができなかったんですね」
僕は塩ラーメンのスープを飲み込んでから、佐賀先輩に訊ねた。向かいの席で佐賀先輩がきつねうどんをすする。
「んー。だろうね。吉良くん、実力あったから余計にだと思う。大学ではテニスはしない、みたいな話を耳にしていたけど」
「故障、ですよね。普通にプレーは難しいと思います」
事故で腕を損傷。最後の大会に出場もできず。どれほどの絶望だっただろうか。何か必死に打ち込んだものがない僕には計り知れない。
「だよね。どうなるかな?」
「さあ。本人次第ですから」
「冷たいなー」
「……」
「……」
沈黙が続いた。今回の依頼が片付いたからだ。そう、今回で最後の依頼。もうじき佐賀先輩は引っ越す。依頼も終わり、一緒にいる理由もなくなった。
「あのさ、五宝……」
「佐賀先輩」
僕は意を決して、提案する。
「最後に依頼をしてもいいですか?」
ぽかんとした表情の佐賀先輩だったが、僕の言葉を理解したのか、ニヤニヤしだした。
「なあに? 五宝も、自分にとっての宝物が何か、知りたいんだー?」
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