そして僕【私】は呟いた

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私は神に見捨てられた。 「かあさま!わたしがおてつだいします!」 私は小さかった。普通の子の様に朝は母の手伝いをし、昼は遊び、夜は家族で寝る…そんな普通の幸せな子供だった。 よく笑いよく泣きよく怒る、感情が豊かな普通の子供だった。 しかし、そんな普通はすぐに消え去った。 私が10才の頃、昔村から追放された犯罪者によって村が焼かれた。両親と家は業火で燃え、友は私を庇い殴り殺され、姉と慕った近所のお姉さんは頭が無かった。よく撫でてくれたあのお爺さんはお菓子をくれるお婆さんと一緒に崖から落ち、最近生まれたと言うかわいい赤ちゃんの今日着ていた服が血まみれになって建物の下敷きになっていた。 私は死ななかった。否、死ねなかったのだ。友には庇われ助けようとしたお爺さんとお婆さんには「お前だけは生きろ」と言われ、大好きな両親は自分たちだけが死ぬことを選び目の前から消えた。何度も何度も「いやだ、いやだ…!」と叫び煙を吸ったせいで呼吸は辛く声は掠れた物しか出ない。自死しようと包丁で腹を刺せば夢かの様に傷は瞬く間に治った。何故私は死ねないのか、何故みんなは死んでしまったのか。私には分からなかった…否、分かりたくなかったのだ。 私は絶望した。村の生き残りは私1人。大好きだったみんなも、この村を恨んでいた犯罪者すら最後には自死してしまったのだ。この怒りや憎しみをぶつける事すら、私には許されなかった。 そして私は燃えて行く山の中で1人、眠りについたのだった…。 眩しい朝の光に起こされ、目を開ける。 どうやら死ねなかった様だ。朝を知らせる様に小鳥が鳴き、それに返事をするかの様にそよ風が吹く。 私が来た方は真っ黒に焼け焦げ、嫌な匂いがした。家なんて無く、あるのはあの光景を彷彿とさせる瓦礫や人だったモノ。…私だけが、生き残った。 私は吐いた。泣き叫び自分を責めた。唯一生き残った自分に。 今はただ戻りたかった。あの幸せで普通な暮らしに…あの、平和で変わりない日常に…。 あの後、泣き疲れて眠ってしまった様だ。起きた頃には夜になっており、フクロウの鳴き声が私の恐怖心を煽る。 私は近くの木に実っていた果実を取って食べ、上を凌ぎ葉っぱをかき集めてその上に横になった。 そして、目を瞑り眠った。 私はあの後、驚く程自然での生活に順応した。幸い私の種族は吸血鬼と言う驚異的な身体能力、再生能力に、力は雷を操ると言う攻撃に適していたからだ。更に凡庸性の高い生活魔法が色々と使えた為、食うには困らなかった。 そして一年は過ぎた頃…私は魔女に拾われた。 魔女には魔法や戦い方を教えてくれた。魔女は私に料理などの家事をさせた。なんでも、魔女は家事が苦手だったそうだが…料理はどうやって生きてきたのか知りたいほど壊滅的であった。なのでキッチンの立ち入りを禁止した。 …それから40年経った。魔女は死んだ。所詮人間の寿命などたかが知れている。 私は何も感じなかった。 それから魔女の家を出て、色んな国を訪ね色々な人間を見てきた。 沢山の物に触れ、知識を蓄えた。 何故か僕についてくる者も居たり、時には急に襲いかかってくる者もいたのだが…まあ割愛させて頂く。 最近、色々な人間や人外が集まる場所があると言う噂を聞いた。 久しぶりに興味が湧いた僕はそこへ行ってみることにした。 僕は驚いた。本当に噂通りの場所だった…神や悪魔、殺人鬼もいれば天使や人間、動物や獣人など種族や年齢など関係なく、色々な者たちが居た…。僕はその中で、風神に出会った。その神は強かった。僕でも敵わないほどに、絶対的な力を持っていた。僕はその方に見初められ、従者になった。後輩も出来た、どんどん仲間が増えていった…そんな非日常的で楽しい毎日を送っていた。 ある日、夢を見た。あの地獄の日の夢。 あの日死んだ村のみんなが私に生きろと言っていた。 今でも思い出すあの光景で、みんなが笑顔で私に生きろと言っていた。 目を覚ますと、僕は泣いていた。 僕は【私】を置いて逝ったみんなを恨んでいた。羨ましかった。 僕はこれからもこの辛く苦しい世界で生きなければいけない。みんなの様に、みんなのもとに行けない。 そんな世界でも仲間が、後輩が、あの人が居るなら…生きててもいいかもしれない。 それで、みんなの様に笑顔で生きろと言って死んだら_______ 「こんどはぼく【わたし】をなかまはずれにしないでね」
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