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十六歳
あの二人のタイミングはいつもぴたりと合っていた。
思い返せば、そんなことばかりだったように思う。
「実は僕、茅原のことが好きなんだ」
いつだったかの放課後の帰り道。同じ方向へ歩く俺に、康太はそう告げた。
さっき交差点で彼女と別れてからなんだかそわそわしていたのはそういうことだったのか。
康太とは小学生の頃から仲が良く、家も近所でよく遊んでいた。それが高校二年生ともなればもう十年弱の付き合いだ。言葉にしなくても大抵のことはわかる。
だからそんなこと今さら言われなくてもわかっていた。しかし本人はかなりの勇気を振り絞ったらしく顔を真っ赤にして、額にはうっすらと汗が滲んでいる。
「知ってるよ」
「え、そうなの?」
「ああ。見たらわかる」
「そういうもんか? ……あ」
俺が短く答えると康太ははっと目を開いてこちらを向く。何を言い出すか、彼の口が開く前にわかった。
「さては圭介、おまえも茅原のこと」
「いやそれはない」
「なんでそんな言いきれんだよ」
「俺、他に好きな人いるし」
最後の言葉は嘘だった。他に恋心を抱いている人なんていない。
けどこうでも言わなければ康太は俺の言うことを信じないだろうと思った。
「そっか、よかった」
夕焼けに照らされた康太は心底ほっとした表情を浮かべて息をついた。それはこっちの台詞だ、と俺は内心で思う。
ついさっき康太が職員室に部室の鍵を返しに行っていたとき、茅原にも同じことを告げられたのだ。
実は私、康太のことが好きなの、と。
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