二十五歳

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「この前、茅原に訊かれたんだよ。『これからどうしよう』って」 「えっと、それは今夜の夕飯の予定とかじゃなくて」 「どちらかというと将来の夕飯の予定かな」 「なんて答えたんだ?」 「それが」  何も答えられなかったんだよな、と康太は苦笑した。氷の音が今度は寂しげに響く。  俺はグラスを置いて彼を見る。  仕事終わりだからか、歳を重ねたせいか、その表情は少し疲れているように見えた。子供の頃に思い描いていた社会人の顔はこんなだったかもしれない。 「だって、変化ってこわくないか?」  康太はもう一本ポテトフライを摘まんだ。そういえばこいつ居酒屋に行くといつも一番にポテトフライを注文してるな、とふと気付く。 「こわい?」 「だって何が起こるかわからないだろ。その変化で幸せになれたらいいけどさ、不幸になることだって全然ある。リスキーだ」 「まあ未来はわからないしな」 「ほんとだよ。なんで変わらなきゃいけないんだろう。このままずっと幸せな毎日を送っていきたいだけなのに、それじゃダメなのかよ」  答えを求めているわけではなく、嘆くように言いながら彼はレモンサワーを持ち上げる。それも彼がいつも口癖のように注文するメニューだ。  それからごくごくと二回喉を鳴らして、康太は潤った口元から言葉を零した。 「……でも、あいつはたぶん変わりたいんだよな」  宙を見る彼が誰の顔を思い浮かべているかは当然わかった。
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