二十八歳

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*** 『康太は私のことが好きなんだ』  スマートフォンのスピーカー越しに彼女の声はそう言った。その惚気た内容とは裏腹に、電話口から流れる声の響きはなんだか悲しげだ。  茅原から電話がかかってきたのは昨日の夜のことだった。  毎日とは言わずとも事あるたびにSNSでメッセージの交換はしていたが、電話が来たのは大人になってから初めてかもしれない。  そこで発せられた彼女の台詞には聞き覚えがあった。じんわりと懐かしさが胸全体に広がる。あの頃からもう随分と時間が経ったようにも、大して変わっていないようにも思える。 「知ってるよ。たぶん茅原より先に」 『あらそうなの? まあ二人って昔から仲良かったもんね』 「三人な」 『……うん、ありがと』  茅原の声の裏にやわらかくはにかむ表情が浮かぶ。 『でもさ、だから余計に辛いんだよね。私だって嫌いになったわけじゃないんだもん。……ただ、もう待てないだけ』    淡々と、彼女は迷いなく話を続ける。  その声はひどく穏やかで落ち着いていたが、そこには固い意志が感じられた。 『やっぱり私は咲きたいの』  その言葉で、彼女が明日康太に何を伝えようとしているかわかった。俺は「そうか」とだけ答えると、彼女は「ごめんね圭介」と一言だけ謝った。 『今年だけは花火大会に来ないでほしい』
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