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俺たちの間に座っていた康太のスペースが空き、椅子に腰掛ける茅原の全身が映る。
綺麗になったな、とふと思った。
制服から私服に変わったからなのか、化粧をするようになったからなのか、茅原は高校生の頃よりもずいぶん大人びて見える。
変わってるんだ。少しずつ、ゆっくりでも、確実に。
「ねえ圭介。ちょっといい?」
右手に箸を持ったまま茅原がこちらを向いた。
俺は思わず目を逸らす。やましい気持ちはまったくなくとも、じろじろ見られているのは気持ちいいものではないだろう。
「ん、なに」
「最近、康太なんか言ってなかった?」
「え、なんかって?」
「たとえば私たちのこととか、将来のこととか」
こちらを覗き込むように見る彼女の目はひどく真剣だった。俺からすれば順風満帆に見えている二人だが、なにか不安なことでもあるのだろうか。
少し考えた。圭介が茅原について言っていたことを思い返す。
けれど、いつも彼が彼女について語ることなんてひとつしかなかった。
「茅原は最高の彼女だ、っていつもうるさいよ」
「あはは、そっかそっか」
「そろそろ茅原がなんかボロ出してくれないと、惚気で胃がもたれそうだ」
「じゃあ次の康太の誕生日には盛大にケーキ焦がしちゃおうかな」
「いやむしろ加点だぞそれ。お互いに」
ケーキを作ってくれたことに感動して丸焦げのケーキを残さず食べる。康太はそういうやつだ。
そんな康太の姿に心打たれて、丸焦げのケーキに口をつける前に用意しておいた綺麗なケーキを差し出す。茅原はそういうやつだ。
そして結局丸焦げのケーキと綺麗なケーキを半分ずつ二人で分け合って食べる。そういうやつらなのだ。
冷めかけてきたカツカレーを口に運びながら彼女の笑い声を聞く。ひとしきり笑ってから、茅原は箸を動かさないまま小さく零した。
「じゃあ私は幸せ者だね」
俺はもう一度茅原の横顔に目をやった。
台詞と声色のズレに違和感を覚えたからだ。その声は喜んでいるというよりも、自分にそう言い聞かせているようだった。
なにか声をかけようかと思ったが、そのときコップをふたつ持って戻ってきた康太が「あれ、なんの話してたの?」と尋ねたので、俺は口から出す言葉を変える。
「康太は最高の彼氏だってさ」
「ちょ、なんだよそれ」
慌ててコップの水をこぼしそうになっている康太を見て、俺と茅原は笑った。
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