十九歳

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 俺たちの間に座っていた康太のスペースが空き、椅子に腰掛ける茅原の全身が映る。  綺麗になったな、とふと思った。  制服から私服に変わったからなのか、化粧をするようになったからなのか、茅原は高校生の頃よりもずいぶん大人びて見える。  変わってるんだ。少しずつ、ゆっくりでも、確実に。 「ねえ圭介。ちょっといい?」  右手に箸を持ったまま茅原がこちらを向いた。  俺は思わず目を逸らす。やましい気持ちはまったくなくとも、じろじろ見られているのは気持ちいいものではないだろう。 「ん、なに」 「最近、康太なんか言ってなかった?」 「え、なんかって?」 「たとえば私たちのこととか、将来のこととか」  こちらを覗き込むように見る彼女の目はひどく真剣だった。俺からすれば順風満帆に見えている二人だが、なにか不安なことでもあるのだろうか。  少し考えた。圭介が茅原について言っていたことを思い返す。  けれど、いつも彼が彼女について語ることなんてひとつしかなかった。 「茅原は最高の彼女だ、っていつもうるさいよ」 「あはは、そっかそっか」 「そろそろ茅原がなんかボロ出してくれないと、惚気で胃がもたれそうだ」 「じゃあ次の康太の誕生日には盛大にケーキ焦がしちゃおうかな」 「いやむしろ加点だぞそれ。お互いに」  ケーキを作ってくれたことに感動して丸焦げのケーキを残さず食べる。康太はそういうやつだ。  そんな康太の姿に心打たれて、丸焦げのケーキに口をつける前に用意しておいた綺麗なケーキを差し出す。茅原はそういうやつだ。  そして結局丸焦げのケーキと綺麗なケーキを半分ずつ二人で分け合って食べる。そういうやつらなのだ。  冷めかけてきたカツカレーを口に運びながら彼女の笑い声を聞く。ひとしきり笑ってから、茅原は箸を動かさないまま小さく零した。 「じゃあ私は幸せ者だね」  俺はもう一度茅原の横顔に目をやった。  台詞と声色のズレに違和感を覚えたからだ。その声は喜んでいるというよりも、自分にそう言い聞かせているようだった。  なにか声をかけようかと思ったが、そのときコップをふたつ持って戻ってきた康太が「あれ、なんの話してたの?」と尋ねたので、俺は口から出す言葉を変える。 「康太は最高の彼氏だってさ」 「ちょ、なんだよそれ」  慌ててコップの水をこぼしそうになっている康太を見て、俺と茅原は笑った。
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