十九歳

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*** 「花火って、何の花なんだろうねえ」  どんと夜空に咲いては、ぱらぱらぱらと散っていく眩しい光の花々を見上げながら康太は呟いた。  その問いは彼がこの美しさに呑まれてふと発したものかもしれないし、高校生のとき俺たちが園芸部に所属していたことに起因するものかもしれない。 「たしか菊とか牡丹とかって言ってたっけな。テレビかなんかで」  俺はうろ覚えの知識を引っ張り出して答える。  すると隣でたこ焼きのトレーを持った茅原が「えーあれが菊?」と不満げな声を出す。鮮やかな橙色の浴衣が視界の端ではらりと揺れた。 「全然見えなくない? 誰が言い出したんだろ」 「まあ昔の話だし、なんとか日本の花で例えようとした結果なんじゃないか?」 「私の好きな花をそんな適当に扱わないでよね」 「俺に言われても」  茅原はパクパクとたこ焼きを口に放り込みながら、やれやれと頭を振る。 「今はこんなにグローバルな時代なのにねえ。このたこ焼きですら明太バターだし」 「さっきじゃがバター食べてなかったっけ」 「康太は知らないかもだけど、じゃがバターも明太バターも食べていいのが大人だよ」 「りんご飴で喜んでた頃が懐かしいね。僕にもたこ焼きちょうだい」 「一個だけね」  康太は茅原のたこ焼きに手を伸ばす。紺色の浴衣の裾と、手首からぶら下がったゴム風船が重力に揺らめく。  いつの間にこいつは浴衣なんて買ってたんだ。康太が自分から浴衣なんて口にするわけないから、たぶん茅原に言われたんだろう。  浴衣を纏った彼と彼女はこの花火と祭りの夜によく似合っていた。  もし今ここに主人公がいるとすれば、それは彼らのことなんじゃないかと思うほどに。
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