13人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあグローバルな時代に生きる俺たちはこの花火を何の花に例えようか」
大きなたこ焼きを頬張る康太と茅原は頬を膨らましたまま顔を上げた。
つくづく彼らのタイミングはドンピシャだ。おまけに口の端の同じような位置にソースまでつけている。
「まあ別にそんな無理して例えなくてもいいんじゃないかな」
康太は咀嚼したたこ焼きを飲み込んでから口を開いた。うんうん、と隣の茅原が頷く。
「だってほら、花火っていろんな色や形があるし」
「もはや花ですらないのもあるよな。ハートとか」
「多様性の時代だからねえ」
「そう、ダイバーシティだよ」
最近覚えたばかりの言葉なのか、茅原は少し得意げに言う。その隙を突いて、康太はこっそりとたこ焼きをもうひとつ食べた。
ひゅるる、と空を切る音が聞こえる。
「──花火が上がる。それを見る」
薄橙の浴衣を揺らしながら茅原はゆっくりと言葉を紡ぐ。
一際大きな音がして、彼らの背景に大輪の光が咲いた。二人は揃って明るくなった夜空を振り返る。
「そのとき頭にパッと思い浮かんだ花の名前が、この花火でいいんじゃない?」
それがダイバーシティだよ、と彼女は笑った。
辺りには大勢の人間が様々な色や形の服を着て、夜空を見上げている。それぞれがいろんな物語を抱えているはずだ。
見ている花火は同じでも、きっと見え方はみんな違う。
「……そうかもな」
「うんうん、そうだそうだ。そうに違いない」
「ちょっと康太! 何個たこ焼き食べてんのよ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人の声を吸い込むような音が聞こえる。
俺は再び真っ黒に染まった空に視線を移す。釣られるように二人も頭を持ち上げた。空を切る音。
それから大きな花火が三つ、ほとんど同時に夜の真ん中に咲いた。
「また三人で花火見に来ようね」
空を見上げたままの彼女の呟きに俺と康太は何も答えず、ただ小さく頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!