二十二歳

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二十二歳

「なんか毎年毎年時間の流れが速くなってる気がしない?」  鮮やかな朱の着物に深い緑色の袴を纏う茅原ははっと気づいたようにそう言った。その手には誰からもらったのか、花束を抱えている。  俺の不思議そうな視線に気づいたのか、茅原は「ああ、これバイトの後輩からもらったの」と種を明かした。橙や黄を基調とした花束は彼女の雰囲気によく合っている。 「康太もおんなじこと言ってたよ。僕たち昨日入学したばっかだったよね? って」 「それは言いすぎ。でもまあ気持ちはわかるかな」 「あ、そういえば康太は?」 「さっき同じゼミの人と喋ってたよ」  茅原は何とも思っていないような説明で、そりゃそうだよな、と当たり前のことに気付く。  いつも茅原と康太と三人でいるせいか、この二人は俺以外の人と知り合うことはないんじゃないかと勝手に思い込んでいた。そんなわけないのに。  俺だって他に友達がいるし、彼にだってゼミの仲間がいる。彼女にも卒業を祝ってくれる後輩に囲まれている。  俺たちはお互いの人生のかけがえのない一部であっても、全部ではない。 「大学って四年もあるのに、高校の三年より短い気がするんだよね」 「まあ、言われてみれば」 「もしかしてこれからもそうなのかな。このままどんどん加速してくんじゃないかって思うと、ちょっとこわいよね」  茅原の言葉をきっかけに俺の頭を過ったのは高速道路のイメージだった。  その入り口、合流地点に向かう軽自動車はエンジン音を鳴らしてぐんぐんスピードを上げていく。 「中身は高校生のときから何にも変わってないのにな」  自虐の交えた笑い話。  そのつもりで俺は唇の端を持ち上げたが、目の前の彼女は一切笑っていなかった。 「……でも、周りは変わってくよ」
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