二十二歳

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 その声を聞いた途端、俺たちの間にはひやりとした霧が立ち込め、周りの卒業生たちのはしゃぐ声が遠のいていく。そんな錯覚を覚える。 「どうしたんだよ、茅原」 「あはは、ごめん。卒業式だからかな。色々考えちゃうんだよね」  茅原は無理矢理に笑顔を作ろうとしたが、出来上がったのは歪で痛々しい表情だった。彼女のそんな表情を、俺は初めて見る。 「私たち高校の頃さ、部活でいろんな花育ててたでしょ」 「懐かしいな。花咲くたび喜んでたっけか」 「うん。けど同じ種類の花でも、同じように育てても、なぜか咲かない花もあったよね」  かさりと彼女の腕の中の花束が音を立てる。  そこに開いていない花は混ざっていない。 「こわいんだよね。このまま自分だけ何も変わらないんじゃないかって。みんなはどんどん先に行っちゃって、私だけ蕾のまま終わっちゃうんじゃないかって」  彼女は何かに怯えるように花束を抱き締める。  普段の彼女からはあまり想像できない姿だった。卒業式という人生の節目がそうさせたのか。それとも、ずっとそうだったのか。  高速道路のイメージが蘇る。音を立てて速度を上げていく軽自動車。 こわくても、それは必要な加速だ。周りとスピードが違ったら大事故になってしまう。 「……あーあダメだね。せっかくのおめでたい日なのにしんみりしちゃって」    彼女は小さく首を振って、俯いていた顔を上げた。その顔にはぱっと煌めくように明るい笑みがある。  ずっと見てきた、いつもの茅原がそこにいた。 「なんか話しやすいんだよね、圭介って。なんでも聞いてくれそうだし」 「……まあそりゃな。またなんかあったらいつでも話聞くよ」 「ありがと。圭介ってさ、なんで彼女できないの?」 「それだけは俺に訊くなよな」 「あはは」    茅原は弾むように笑う。  その笑顔はよく見てきたもので、けれどそれは本当の彼女ではないのかもしれないと今更思った。 「おーい!」  どこからか呼ぶ声が聞こえて視線を巡らせると、遠くのほうでスーツ姿の康太が大きく手を振って俺たちの名前を呼んでいる。 「正門の前でみんなで写真撮ろうぜ!」  そのはしゃぎように周囲は苦笑いを浮かべているが本人に気にする様子はない。 「ほんと康太は変わんないよね」と茅原は呟く。その表情はよく見えなかった。
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