二十五歳

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二十五歳

「なあ幸せってなんだと思う?」  康太はそう尋ねながらレモンサワーのジョッキを持ち上げた。傾けたジョッキの角から水滴が一粒落ちて彼の膝を濡らす。  社会人になって三年が経つと、三人が揃う機会はほとんどなくなった。  恋人同士である彼らはたびたび会っているようだが、三人では予定が合わず叶わないことが多い。今日も本当は久しぶりに全員で顔を合わせる予定だったが、茅原に急な仕事が入ってしまったようだ。  確実に三人が揃うのは、今ではあの花火大会くらいだ。 「なんだよその青臭い質問は」 「僕、今けっこう幸せだと思うんだよね」  康太はもう一度ジョッキを煽った。からん、と氷が涼しげな音を鳴らす。 「社会人になって時間の制限はあるけどさ、学生に比べたらお金があるから好きなもの食べられるし、趣味も充実できるし、なんなら時間も買えるし」 「素敵な彼女もいるし」 「ほんと僕は幸せ者だよ」  康太はジョッキを置いて、ポテトフライを摘まむ。摘まんだそれをケチャップの山にくぐらせてから口に運んだ。  駅前の居酒屋はまだ夕方だというのに満席だ。他に行くところはないのかとも思ったが、他に行くところがない俺たちにそれを言う資格はない。 「だからさ、この幸せをできるだけ長く続けたいんだよね」 「続ければいいだろ」 「簡単に言うなよなー」 「難しいのか?」  俺はハイボールを傾けながら尋ねる。  口に出したあとで、本当に幸せな人間は幸せってなんだろうとは思わないんじゃないか、とも思った。  案の定、康太は少しの間を空けて「難しいよ」と答える。
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