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【1】
いつもと同じ、光景。
葛西 杏美が教室に入るなり、大声で騒いでいた派手で目立つグループの女子たちが一瞬で静かになった。
入り口を、……杏美の方をあからさまに目だけで窺いながらのヒソヒソ話。
「葛西。おはよー!」
「おはよう、若松」
自分の席に座っていたクラスメイトの若松 亮輔が威勢よく立ち上がり、杏美に声を掛けて来るのに素っ気なく挨拶を返す。
「杏美ちゃん」
友人の小椋 佳映に小声で呼ばれ、杏美はそちらへ向かった。
「佳映。どうかした?」
「あんなの気にしないでね。……ごめん、杏美ちゃん」
呟くような彼女の声に申し訳なささえ感じる。彼女が心を痛める謂われもないのに気に病ませてしまっていた。──だからこそ決して関わらせてはならない。
「してない。あと佳映は絶対何もしちゃダメだからね! 巻き添え食うことない。……別に私のことなんて放っといていいのよ」
「そんなことできるわけないじゃない。でも、結局何もできなくて、私──」
この優しい、そして少し気弱な友人だけは守らなければ。
「あのさあ。私があんなのでショック受けるとでも思ってる? そんなわけないじゃん」
「そ、れは知ってるけど。でもあんなわざとらしいのって」
自分のために憤ってくれる佳映を、杏美はどうにか宥めようとした。
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