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その背後から聞こえる、不愉快な粘ついた声。
「若松ぅ。今日の英語さ、あたし当たるからちゃんとやって来たんだ〜。よかったら見る?」
杏美を敵対視するグループのリーダー的存在である綾野 玖里子が、彼に擦り寄っている。
「いらねえ。英語なら宗が得意だし、いっつもバッチリだしな。なあ?」
先程の杏美に対するものとはまるで違う不機嫌な顰め面で玖里子に吐き捨てた若松は、名の上がった友人に話を振った。
「おお、もちろん! 昼になんかデザート奢ってくれよな」
「よし、交渉成立。プリンでいいか?」
すぐ傍の玖里子を完全に無視して、若松は友人との会話に移行していた。
玖里子が、ひいては彼女の属する集団が杏美を敵視して攻撃しようとする主因はこの若松だ。
彼は杏美が好きらしい。
杏美はむしろ気分屋で自分勝手な彼は嫌いなタイプでさえあるのだが、玖里子にはそんなことは関係がないのだろう。
好きな男が、自分とは違う女に気持ちを向けている。
ただそれだけのことで自分の評判などお構いなしに、場所を選ばず醜悪さを剥き出しにできるその神経がまず信じられなかった。
男のことだけで頭が埋め尽くされた愚かさにただ呆れる
そもそも杏美がいなくても、普段の対応からだけで若松が玖里子に特別な想いを向けることはない気がした。
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