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 放課後、教室に忘れ物をして仕方なく戻った杏美は、何故かそこにいた若松と顔を合わせる羽目になった。 「葛西。もう知ってるよな……? 俺、お前が好きなんだ。だから、その。付き合わないか?」  さっさと用を済ませて立ち去ろうとしたのに、空気を読まない若松の告白に内心げんなりする。 「悪いけど……」  喉まで出掛かった声を飲み込ませたのは、脳裏に過る玖里子の顔だった。  容貌はむしろ良い方だろうに、内面がそのまま出たあの下卑た表情がすべてを台無しにしている。 「……いいよ。でも私、まだ若松のこと好きとか、そこまで思えないんだ。だから付き合うって言っても、学校で話したり駅まで一緒に帰ったりとかその程度だけど。それでもよければ」  この男に合わせる気はなかった。  たかが「玖里子に思い知らせるため」だけに余計な時間や労力を費やすなど無駄でしかない。  佳映とは同じ中学出身とはいえ、少し家が離れていて彼女はバス通学だった。そのため電車利用の杏美は登下校はもともと一人で、予定を変える煩わしさも感じずに済む。 「いい! 葛西は俺のこともよく知らないと思うから、少しずつ好きになってくれたらそれでいいんだ!」  これから部活の練習があるという彼は、声を上擦らせてそれだけ言い置くと教室を出て行った。  杏美の承諾に全身で喜びを表す若松ではなく、このことを知った玖里子の反応だけが楽しみだった。
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