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◇ ◇ ◇
「葛西、今日昼メシ一緒に食わねえ?」
「ごめん、昼は先約あるんだ」
告白を受け入れた翌日、登校した杏美を待ち構えていた若松に誘いを掛けられた。
「あ、そっか。いやいいよ。急に言った俺が悪いんだし」
食い下がられたら面倒だな、と眉を顰めそうになった杏美は理由を問い質すこともなく引く彼に驚きつつも安心する。
「杏美ちゃん、あの、……若松くんと……?」
「ああ、まあね。『付き合ってくれ』って言われたから。私のどこがいいのかわかんないけど」
佳映の問いに答えながら、同時に露骨に聞き耳を立てているのがわかる玖里子へも確実に届けるために、声を抑えることもしなかった。
「クーコ……!」
誰かが椅子を蹴倒す勢いで走り去る音と気配を背中に感じながら、杏美はそちらを振り返ることさえせずに佳映との会話を続ける。
「そうなんだ、全然知らなかったからびっくりしちゃった。杏美ちゃんはそういうの興味ないと思ってたし」
「私も一応は女子高生の端くれだしね。あ、佳映。お昼は今まで通り一緒に食べよ! それでさ、昨日話してたあれ──」
実際に興味などないのだが、わざわざここで口にすることではないと話題を変えた。
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