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「若松、ちょっといい?」
「え!? 何?」
食事を終えた昼休み、杏美は佳映に断って若松を誘い教室を出た。
「私が佳映と仲良いの知ってるよね? 昼もいつも二人で食べてるから、もし私が若松と食べたらあの子一人になっちゃう。まあそれは気にしないと思うけど、……佳映にとばっちり行ったら困るの。意味わかる?」
無言で彼を先導して歩き、人気のない廊下の端で足を止めて切り出す。
「ああ、そういうことか。わかる。綾野だろ」
杏美が玖里子に執拗に悪意を向けられていることは周知の事実だ。
当の杏美が平然としているため誰も間に入ろうとはしないが、不快感を覚えているクラスメイトは多いのだろうか。
「……佳映は中学の時ちょっと虐められてた時期あったみたいなんだ。陰でやりやがるから私も知らなかった。もう二度とそんな目に合わせたくない。だから絶対巻き込みたくないんだよ!」
思わず声に力を込めた杏美に、目の前の彼は真剣な面持ちになった。
「俺も宗とか河野に気ィつけてもらうように言っとく!」
「余計なことはしなくていいからね。もしものときはせめて私に教えてくれたら助かる」
杏美に頼られたことが嬉しいのか、若松は「任しとけ!」と胸を張った。
「葛西、友達思いだよな」
「普通よ、こんなの。若松は違うの?」
真顔の杏美に、彼は納得したように「違わねえ」と返して来る。
「なあ、今日一緒に帰れる……? 駅まででいいから」
「うん。でも若松、部活は?」
「今日はオフ! 練習ない日だけでも一緒に帰ろ?」
いいよ、と返した杏美に、若松は嬉しそうに頷いた。
玖里子に「若松が杏美と付き合い出した」ことを知らせ、唯一の不安である佳映の安全にも一応は備えた。
あとは向こうの出方待ちか。
結局、その日のうちに早速行動に出た玖里子に、杏美は餌に引かれて罠に掛かる獲物を重ねていた。
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