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【2】
「……あー」
若松と連れ立って帰るために辿り着いた昇降口。
杏美の靴箱は紙くずや菓子の包装ごみで溢れていた。
「なっ! なんだよこれ。葛西、そんな平気な顔で……。もしかしてずっとこんなことされてたのか!?」
「毎日じゃないけどね」
事実をそのまま告げる。
こういうことは誇張しない方がかえって効果的だ。杏美の自作自演だとでもいうのならともかく、間違いなく玖里子の仕業だろう。
教室でのあからさまな態度は鳴りを潜め、入れ替わるように陰湿な顔を見せない嫌がらせが始まっていた。
いま杏美に「直接」なにかすれば、若松が黙っていないのは明白だからだ。同様に、佳映に対する理不尽な仕打ちもない。
「なんで言わないんだよ! こんな、卑怯だろ!」
「汚れ物じゃないし、捨てればいいから。たいしたことないわ」
万が一にも笑みが漏れないよう俯いたのを、彼は傷ついているせいだと捉えたらしい。
基本何にも動じない、気が強くはっきりした杏美の普段にない様子に、若松の方が怒りを抑えられないようだった。
「──なあ、これ綾野だよな? 葛西、ずっとイジメられてたじゃん!」
「わかんないわ。誰がやったのか見たことないし。他に心当たりなんてないけど、勝手に決めつけるの嫌だよ」
明言はしないものの「玖里子の仕業だと思っている」というのは伝わった筈だ。
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