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    ◇  ◇  ◇ 「ひとりで帰んの? 私は若松と約束してるけど」  放課後の人気のない昇降口付近。  今日は若松が部活のミーティングで、すぐに終わるというので図書室に寄って時間調整していたのだ。  靴箱を目指して廊下を歩いていた杏美は、正面から、……つまりやって来た久理子と行き会った瞬間、彼女を見ることもせずに呟く。  聞き咎めてキッと鋭い目を向けて来たクラスメイトに、杏美はスクールバッグを故意にゆっくりと肩に掛け直した。焦らすかのように。 「私、あんな奴別にどうでもいいの。あんたが好きな男だっていうから、告白されてちょっと付き合ってやってもいいか、ってだけ。まあ優しいし、一緒にいて気分悪いわけじゃないから向こうが別れたいって言わなきゃこのままでいいわ」  薄笑いを浮かべて歌うような調子で語る杏美に、言質を取ったとでも勘違いしたのだろうか。 「あ、あんたがそんな女だって若松にバレたら──」  久理子が引き攣った醜い顔で口にした「切り札」を一蹴する。 「知ってるに決まってるでしょ。若松はそういうの全部わかった上で好きなんだって〜。どんなに媚びてへつらっても相手にもされない、……愛想笑いするのも面倒がられるあんたとは違うのよ」  いくら不遜な久理子でも、常に彼から不快そうな顔を向けられていた事実は認めざるを得ないだろう。  それでも諦めずに愚直なアタックを繰り返す能のなさには失笑しかなかったが。
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