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「だからってさあ! 俺、こういうの許せねえ! ガツンと言ってやんねえと……」 「あのさ、『もし』そうだったらまたエスカレートしたら困るから。若松も今までのこと知ってるでしょ? 私はどうでもいいけど、佳映に向いたらどうしてくれんの? 証拠でもあるならともかく」  黙り込んで考えを巡らせているらしい若松に、どうやらいい方向に行きそうだ、と杏美は顔には出さずに笑った。  嫌な奴だとしか感じてはいなかった。  この一週間共に過ごす時間が増えてはいても、特別な感情などはまだない。それでも彼が、二人でいるときに杏美の意向を確かめつつ楽しませようと努めているのは伝わっていた。  もっと独善的で「黙って言いなりになっていればいい」というタイプに見えていたのに。  思ったよりも「いい男」らしい暫定恋人。 「なあ、葛西。今日は寄り道できる? お家の方は?」 「あー、今日は何も言って来てないから。明日ならお茶くらい大丈夫だよ」  杏美の言葉に、彼はまるで飼い主に尻尾を振る犬のように満面の笑みで「だったら明日はカフェ行こう!」と明るい声を上げた。  きっと若松は、このまま見過ごすことはしないだろう。  どちらにしても、玖里子の末路を見届けられればそれでよかった。
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