働かざるもの食うべからず。働く以外の選択肢をもらえません。

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働かざるもの食うべからず。働く以外の選択肢をもらえません。

 レオンに案内されてたどりついたのは農村でした。  街灯一つない、ひなびたという形容詞が似合う場所。    ブモオーという低くて野太い啼き声がこだましています。  これはなんの声。変な臭いもするわ。  レオンは声を恐れる様子もなく、大きな舎の中に入っていきます。  レオンがコートを脱いで、舎に灯りをつけてまわって、初めてレオンの顔がわかりました。  目にかかる茶色い髪。  空を思わす青い瞳。背は私より頭一つ分高い。  筋肉質なのが服を着ていてもわかります。  レオンの背後には白と黒の斑柄をした大きな動物が四頭。同じく斑柄で小さめの動物が一頭います。  その動物が頭を持ち上げて、ブモォ〜!! と啼きました。 「こ、これはなに」 「ゲルダは牛を見たことないのか?」 「肉を食べたことならあるけれど、生きた姿を見たことはないわ。これが牛……」  牛は私の背丈よりも大きい。 「こいつらの世話をするのが俺の仕事。牛乳を出荷して金をもらう」 「れ、レオン。私、食べられちゃったりしない? こんなに大きいんだもの。ひと一人簡単に食べられるんじゃ」 「んなわけあるか。こいつらは草食だ。食べるのは牧草だし、飲むのは普通の水だ」  ……もしかして私、無知をさらしただけ?  顔が熱くなって、レオンから目をそらします。 「朝と夕の二回、牧草を食わせて水を飲ませ、牛乳を搾る。搾った牛乳はそこの冷却魔法のタンクにためる。寝床の掃除をしてやる。翌朝の搾乳後に町の業者が買い取りにくる」 「そうなのね」  レオンは腕まくりして、一輪車で牧草を運んで牛に与えていきます。  井戸水を汲み上げて牛の前のたらいに張ってやると、牛たちは嬉しそうに食べています。  レオンが牛の横に屈んで乳の先を引っ張ると、バケツの中に牛乳が入る。  あんなに足の近くにいて大丈夫なのかしら。牛の脚は太くてがっしりしていて、蹴られたら骨が折れちゃいそう。 「どうだゲルダ。やれそうか?」 「え、わ、私も同じことをするの? 見ているとかなりの力仕事なのに」 「また山道に戻りたいなら案内する」  働かざるもの食うべからず。  働くしか道はありません。 「……お世話になります」
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