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逃げちゃダメだ!
赤い宇宙艦隊の群れは宇宙空間を進んでいる。
大きさは比較するものが無いので、判らない。一隻一隻の見た目は、どことなく金魚を連想さるのだけど……。
「……君はいま銀河超空間ネットワークの一端末に接続している。地球人の頭脳で認識できるのは『金魚すくい』のままかもしれないけれど」
流石に小ばかにしたような語尾が腹立たしい。
「ひゃっ!?」
突然、小惑星が私の頭上を掠めていった。
クレーターだらけの月みたいな岩の塊が、3D映画のように私の頭上を飛び越えて、赤い宇宙艦隊の一隻に向かってゆく。
「ぶつかる!?」
次の瞬間、銀色の糸のような光が発射されると小惑星が内側から光を発し、音もなく粉々に砕け散った。破片の中を進む宇宙艦隊は無傷。ギラギラと船体を包む赤いバリアみたいなフィールドが輝く。
どうみても極悪な宇宙人の宇宙戦艦じゃん!?
「一隻が、君の世界の単位で10キロメートルもある戦闘艦さ」
それが数十万の軍勢となって銀河の中を進軍している。
何処へ? という疑問はすぐに解消した。
さっきまで『黒いデメキン』と思っていたものは地球だった。
私たちの住む――地球。
テレビでみるような青い惑星は綺麗だった。
あぁなんてこった。理解してしまった。
「金魚すくいじゃなく、地球すくいってこと!?」
店主さんはコクリとうなづいた。
「今、地球上の人類のなかで君だけが、地球(ほし)を救える。黒い『デメキン』が銀河内における地球の相対時空空間座標を意味する。赤い金魚の正体はプロキシオン第三星系の地球殲滅艦隊。救うんだ……時間が……無い」
ザザッと狐の面の人が揺らぐ。
「……ポイで地球をすくう?」
「ポイは量子テレポート・ゲートウェイの座標固定装置。地球が滅亡する時間軸から救い出せる」
「し、質問いいですか?」
震える声で手をあげる。
「どうぞ」
「何故に地球を壊滅させる必要が……?」
「プロキシオン星系人は水棲生命体。大気中に生息する生命とは敵対関係にある。海を汚し魚類の『奴隷遊戯』に興じる地球人に鉄槌を下すつもり」
「奴隷遊戯?」
「釣りとか『金魚すくい』」
「なるほど!?」
半漁人みたいな宇宙人が私たちをみれば「同族の魚を苛めている」ように見えるかも……。ってそんなアホな。
私はひどく後悔した。
ここで白目を剥いて失神できたら……どんなに楽だろう?
「さぁどうする?」
「私が失敗したら……」
「数十時間後に艦隊は太陽系に到達する。そして、君はすべてを失う。家族も、友達も、何もかも」
「そんなの嫌!」
怖い、ワケがわからない。
地球が消えて、みんな死んじゃう。
大好きな先輩も。
ちょっと憎たらしい友達も。
お母さんもお父さんも、可愛い犬のアキも。
そんなの、絶対に嫌。
だから、逃げちゃダメだ!
「……ヤツらに気づかれた。いつまでも干渉できない……はやく」
ザザッ、と全体がノイズで揺れた。
「あぁあもう! やってやるわよ!」
どうやら私は、究極にワケのわからない土壇場に強いらしい。
先輩に告白は出来なかったけど。
せめて、地球ぐらい救ってやるんだから!
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