逃げちゃダメだ!

1/1
前へ
/7ページ
次へ

逃げちゃダメだ!

 赤い宇宙艦隊の群れは宇宙空間を進んでいる。  大きさは比較するものが無いので、判らない。一隻一隻の見た目は、どことなく金魚を連想さるのだけど……。 「……君はいま銀河超空間ネットワークの一端末に接続している。地球人の頭脳で認識できるのは『金魚すくい』のままかもしれないけれど」  流石に小ばかにしたような語尾が腹立たしい。 「ひゃっ!?」  突然、小惑星が私の頭上を掠めていった。  クレーターだらけの月みたいな岩の塊が、3D映画のように私の頭上を飛び越えて、赤い宇宙艦隊の一隻に向かってゆく。 「ぶつかる!?」  次の瞬間、銀色の糸のような光が発射されると小惑星が内側から光を発し、音もなく粉々に砕け散った。破片の中を進む宇宙艦隊は無傷。ギラギラと船体を包む赤いバリアみたいなフィールドが輝く。  どうみても極悪な宇宙人の宇宙戦艦じゃん!? 「一隻が、君の世界の単位で10キロメートルもある戦闘艦さ」  それが数十万の軍勢となって銀河の中を進軍している。  何処へ? という疑問はすぐに解消した。  さっきまで『黒いデメキン』と思っていたものは地球だった。  私たちの住む――地球。  テレビでみるような青い惑星は綺麗だった。    あぁなんてこった。理解してしまった。 「金魚すくいじゃなく、地球すくいってこと!?」  店主さんはコクリとうなづいた。 「今、地球上の人類のなかで君だけが、地球(ほし)を救える。黒い『デメキン』が銀河内における地球の相対時空空間座標を意味する。赤い金魚の正体はプロキシオン第三星系の地球殲滅艦隊。救うんだ……時間が……無い」  ザザッと狐の面の人が揺らぐ。 「……ポイで地球をすくう?」 「ポイは量子テレポート・ゲートウェイの座標固定装置。地球が滅亡する時間軸から救い出せる」 「し、質問いいですか?」  震える声で手をあげる。 「どうぞ」 「何故に地球を壊滅させる必要が……?」 「プロキシオン星系人は水棲生命体。大気中に生息する生命とは敵対関係にある。海を汚し魚類の『奴隷遊戯』に興じる地球人に鉄槌を下すつもり」 「奴隷遊戯?」 「釣りとか『金魚すくい』」 「なるほど!?」  半漁人みたいな宇宙人が私たちをみれば「同族の魚を苛めている」ように見えるかも……。ってそんなアホな。  私はひどく後悔した。  ここで白目を剥いて失神できたら……どんなに楽だろう?  「さぁどうする?」 「私が失敗したら……」 「数十時間後に艦隊は太陽系に到達する。そして、君はすべてを失う。家族も、友達も、何もかも」 「そんなの嫌!」  怖い、ワケがわからない。  地球が消えて、みんな死んじゃう。  大好きな先輩も。  ちょっと憎たらしい友達も。  お母さんもお父さんも、可愛い犬のアキも。  そんなの、絶対に嫌。  だから、逃げちゃダメだ! 「……ヤツらに気づかれた。いつまでも干渉できない……はやく」  ザザッ、と全体がノイズで揺れた。 「あぁあもう! やってやるわよ!」  どうやら私は、究極にワケのわからない土壇場に強いらしい。  先輩に告白は出来なかったけど。  せめて、地球ぐらい救ってやるんだから!
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加