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夏祭りと失恋の夜
「えっぐ……先輩ぃ……」
鼻水と涙が滝のように流れ、他人が見たらきっと酷い有様だろう。
夏祭りの夜、私は慣れない下駄で何度も転びそうになりながら歩いている。
私――藤城春真は勝手に失恋した。
夏の終わり。村の神社で毎年行われる小さな村祭りは大勢の人で賑わっている。
道行く人はみんな楽しそうで、リア充カップルはお互いの顔しか見ていない。
幸せそうな誰かとすれ違うたびに、涙と鼻水で濡れた情けない顔を見られたら恥ずかしいとうつむいてしまう。
好きにならなきゃよかった。
後悔で涙が溢れ、視界が歪む。
「……私、バカだ」
どうしてもっとはやく好きですと、言えなかったのかな?
何度も脳内シミレーションを繰り返し、タイミングも完璧だったはずなのに。
高校に入った私は、笑顔が素敵なメガネ先輩に恋心を抱いた。
図書館にいる先輩と一度話したきりなのに。
書棚に隠れながら姿を追い、先輩が図書館で借りた本を次に借りて読むのが私のささやかな楽しみになっていた。
夏休みに入っても私のストーカーめいた行動は変わらなかった。
そして祭囃子が聞こえ始めて「このままじゃダメじゃん!?」とようやく覚醒した。
夏の終わりが来る前に告白して、先輩に気持ちを伝えたい!
昼間の暑さも和らいで涼しい風が浴衣をすべり心地よい。
祭囃子は神楽の音色、神社前の広場には十数店の屋台が軒を連ね、色とりどりの看板の明かりが行き交う人達の笑顔を照らしている。
熱気とざわめきと沢山の色と光、屋台と松明の匂いが交じり合って「祭り」という空間をつくっていた。
私は考えた。
祭りの雰囲気に乗じて、先輩に告白しよう。それがいい。
浴衣を着て待ち伏せて、想いを伝えようと決めた。
なのに――。
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