夏の終わり

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 ぷちっと微かな音が響いた後、王は拳を開いた。  掌には先程まで会話をしていた虫の屍骸がへばり付いている。無残に飛び散った体液は仄明かりを集めて縁を輝かせる。それらに囲まれたコナガはぴくりとも動かなかった。  王は立ち上がって、両手をブン、と宙で二回振った。体液は未だにべっとりと付いているが、コナガの屍骸は皮膚を離れ、闇に紛れて分からなくなってしまった。  空になった両手を見つめ、ぽつりと呟いた。 「普通に死んでりゃ良かったものを」  寿命を超えて生きたいなどと分不相応な考えを持つから、こんな目に遭う。  春を見て、夏を知り、秋を迎え、冬まで生きたところでどうなると言うのだ。寂寥感が年々増すばかりで、良いことなど一つもない。  誰もいない恐怖を抱え、暖かな過去を夢見て、浅く空気を吸う。そんな日々のどこがいい。お前の想像程、楽しいものでは無いぞと既に行方の知れないコナガへ吐き捨てる。  最早、王を知る人間は誰一人として生きておらず、王は神々に馴染むことが出来ない。不意に触れてきた生命はあまりに恐ろしかった。  なれば、これでいい。今迄もこれからも孤独のままだ。  涼風が掌に僅かに残っていた温もりを掻き消した。秋はすぐ側に迫っていた。
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