アオと母

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 玄関に向かう途中、洗面所に一歩だけ踏み込んで前髪を整える。飾り気のないストレートボブに制服を崩さずに着ている私は、今日も変わらず陰キャな見た目だ。  不細工とまでは言わないが、かわいくない。笑わないからかわいくないのか。かわいくないから笑えないのか。どっちが先だったのか、もう忘れてしまった。  キラキラ女子に憧れはするけれど、どうせ中身が伴わないのだから今のままでいい。鏡の中で不満げな顔をする苗木(なえぎ) 萌々香(ももか)を振り切って、私はローファーにつま先を差し入れた。 「行ってきます」 「いってらっしゃい」  外に出ると、5月の空気は軽く風が心地よかった。千切れた雲がいくつか浮かんでいるものの、空はどこまでも青く澄み渡っている。こんな日に学校に行かなきゃいけないのが嫌になる。  私はエレベーターの手前で曲がり、マンションの外階段を降りた。その間にイヤフォンを取り出し、スマホでプレイリストを選択する。  今日は苦手な英語が一限目だ。だったら勢いがつくように、ゲームの戦闘曲にでもしてみようか。  左耳にだけイヤフォンをつけ、右側はだらりと垂らした。  音は最小限にしているから、大通りに出れば車のエンジン音にすぐにかき消される。だけど、それでいいんだ。私には音漏れをするほど大音量で音楽を聴く勇気なんかない。  ああ、ほらもう軌道に乗った。  徒歩通学の私にはバス待ちの時間も、渋滞の煩わしさもない。心とは裏腹に、一度歩き出せば、あとはどんな曲を聴いていようと足は自動的に前に進んでいく。もはや、立ち止まる方が面倒なほどに。  そうして、私は学校へ向かう。  行きたくなくても行かなきゃいけない。登校拒否する勇気もない。それが欠陥品である私の日常だった。
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