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紗耶香と私
「小テストどうだった?」
一限の英語が終わり、私は紗耶香に話しかけた。
廊下側一番前の私の席から、左斜め後ろ。緩く二つ結びにした髪をいじっていた彼女は、にやりと笑いピースサインを掲げた。
「バッチリ! 今日の問題はあんまり難しくなかったよね」
教室内はざわついているが、紗耶香の明るい声はなんとか私の耳に届く。
「そうなんだ」と返すと、赤く色づいたくちびるをつんと尖らせた。
「なに、余裕? まったく、成績優秀者は言うことが違うね」
紗耶香は、私の思惑とは違う意味で質問を受け取っていた。
「違うって。私はリスニング苦手だから、散々」
簡単過ぎたから他の人の感覚が知りたかったんじゃない。簡単だったのか、難しかったのかさえ判断ができなかったから聞いたんだ。
紗耶香ははじめピンときていない様子で私の顔を見つめたが、ふと納得したらしくへらへらと笑った。
「あー、そういえばそうだったね」
「そうそう。聞こえない訳じゃないけど、聴き取れなくて。頭の中で反芻してるうちに次の問題流れてきちゃったし、後半は当てずっぽうもいいとこ」
「まー、英語なんて聴こえてても似たようなもんだけどね」
私の心からの嘆きを、彼女は簡単に流した。
そこは似て非なるものだよ。って、本当は言いたい。だけど、健常者にはわからないから言っても仕方がない。
私は障碍者として扱われない障碍者だ。
一側性難聴、わかりやすい言い方だと片耳難聴。私は生まれつき、右の耳が全く聞こえない。
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