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平等とやさしさ
「文化祭委員。全員揃いましたね。私は三年一組の高村 彩乃といいます。
去年の流れを汲んで、委員長に指名されました。
文化祭は十月だからまだ早いと思っている人がほとんどでしょうが、動き始めたら早いものです。学業に支障の出ないよう、少しずつ確実に進めていきましょう」
教壇の上で、高村さんは滑らかにそう告げた。姿勢よく堂々としている姿は同性の目から見ても格好良く、高い位置で結んだポニーテールが似合っていて素敵だ。
周囲の状況を窺いながら、私は心の中で拍手を送った。
委員を押し付けられた時にはどうしたものかと思ったが、この人が引っ張ってくれるならなんとかなるかもしれない。
「じゃあ、前の席の人から自己紹介をお願いします。学年・クラス・名前と、趣味か好きなもの。あと抱負ね」
ほっとしたところで死刑宣告のような言葉が降りかかり、瞬間的に私の背筋は凍った。
規則正しく並んだ机を、右端の方から数える。一クラス二名、合計三十人が集められた教室で、私の順番は六番目だ。
並び順に法則はない。「来た順に前から詰めて座って」そう言われた時からなんとなく嫌な予感はしていた。高村さんは良くも悪くも平等主義だ。まずは三年生が手本を見せるべきという考えはないらしい。
「一年×組の××です」
運の悪いことに、トップバッターは一年生だった。
促されて立ち上がる。彼は高村さんの真っ直ぐな瞳に射抜かれて、かわいそうなくらい委縮していた。
勝手に親近感を抱き、同情する。名前さえ聞き取れないほど、彼の声は小さくくぐもっていた。好きなものはなんて言ったっけ。肝心なことが何一つ聴き取れない。
「ありがとうございます。じゃあ、次の人お願いします」
高村さんは相手が誰であろうと気にせずに、次へ次へと話を進めていく。
私は右隣に座る男子の後頭部に視線を向けた。纐纈君、同じクラスの彼は文化祭委員に自ら手を挙げた。やる気に満ち溢れている人は抱負を語るのに苦労などしないだろうが、押し付けられた私はどうしたらいいのだろう。
それに、私にはこういう時どうしても選択しなければならないことがある。
救いを求める気持ちが滲んでいたのか、彼は私の視線に気付いて振り向いた。
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