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「ほんとは、見届けたい気もするんだけど」別れを惜しむ水仙。
「大学決まったら、神戸、遊び行ってもいいかな」
二人は、バスの中で連絡先を交換していた。水仙の志望校は大阪にある大学だった。
「いっすよ。下見ついでですよね」にこやかに応える輝彦。なんだかんだで昼前になってしまった。残された時間が少ないと思った輝彦は、手元に残ったお金で初めて特急券を買った。金沢へはあと四十分弱電車に乗るだけだ。
「輝彦くん」
「はい?」
「タメ口でいいよ」
「へ?いまさら?さんざん年上だって威張っといて?」
輝彦が笑う。それにつられて水仙も笑った。
「いーんだよ。今から許可」笑いながら、憎まれ口のように言う水仙。
「無事彼女さんに会えるように祈ってる」
「だから彼女じゃ・・・」苦笑いする輝彦。
特急電車がホームに入ってくる。水仙が、手を差し出した。
「え?」
「握手」
差し出された手を握る輝彦。その手をぎゅっと握り返す水仙。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「気を付けてね」
輝彦はうなずくと、電車に乗り込んだ。自由席の窓側に座ると、電車が動き出した。手を振る水仙に、輝彦も手を振り返した。水仙の姿はすぐに遠くなり、そして窓の範囲から外れていった。
水仙は、一人残ったホームから、走り去る電車にずっと手を振っていた。
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