<5章>

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「すみません、結局汚してしまって」 「いいんですよ」にこやかに応える水仙の母  朝食を済ませ、部屋に戻るとすでに部屋は綺麗に片付けられていた。  朝食前、スマホのメッセージをチェックすると、アゲハからのメッセージと、父からのメッセージが入っていた。アゲハからのものは、うまく会えたか?という一言だけ、父からの方は、無事であるか、相手には無事に会えたのか、今どこにいるのか、の三つの質問だった。美織からの返信は、ない。  アゲハに「今日絶対に会います」と返し、次に彼は父への返信を打った。今あわら温泉にいること、たまたま出会った人の母親の宿に泊めてもらったこと、そして、今日こそ絶対に会いたい人に会うということ。  珍しく、父はすぐに返信してきた。 ”母さんに言わないから正直に言え。会いたいのは女か?”  輝彦は、少し考えると”YES”とスタンプを返した。父からもすぐに返信が来た。 ”わかった。幸運を祈る。会えたら連絡するように” 「ぼちぼち出発しないと。あれ?」  胸を潰すシャツを着て、カバンの中身を整理する輝彦。が、彼は首を傾げた。 「しばらく待ってくださいな」水仙の母が一旦部屋を出ていく。 「ごめん、勝手なことしたんだけどさ」そう言うのは水仙だ。ほどなく、彼女の母が、それを抱えて戻って来た。 「え!」 「ごめんなさいね。急いで乾燥機までかけたんだけど」  彼女が抱えていたのは、輝彦の衣服一式だった。さっき輝彦がカバンの中を見た時に、汚れた衣服が全部なくなっていた。それが今、綺麗に選択され畳まれて、水仙の母に抱えられている。 「なんか、すみません」頭を下げる輝彦。 「いいえ。水仙に、勇気をくれたんですってね。本当にありがとうございます」水仙の母は再び深々と頭を下げた。 「芦原温泉の駅まで送迎のバスが出ますから、それまでここで待っててくださいな」  うなずく水仙。と、輝彦。バスをロビーで待つ。と、輝彦はさっきから感じていた違和感がまた来るのを感じた。  朝目覚めてから、ずっと感じていた違和感。それは、下腹部にあった。痛いとは言わないが、何かどうもしっくりいかない。それが大きくなり、そして、波が来た。 「みのさん、ごめんなさい・・・・また来る」  うなずく水仙。 「ママ!」  慌てて水仙の母が戻ってくる。フロントの男性が、一緒にやって来て輝彦を抱えると、彼は再び客室の一つに連れていかれた。 「大丈夫ですか・・・」水仙の母がささっと布団とシーツを敷く。 「すみません・・・みのさん、昨夜オレ、何時ぐらいだったか、わかりますか?」 「ごめん、わたしも寝ちゃったから」  そんな会話をしているうちに、輝彦の身体からボロボロと滓が落ち始める。 (やばいな、どんどん間隔が短くなってる)  水仙とその母に助けられ、服を脱ぐ輝彦。発作自体については慣れたのか、それとも発作そのものが軽いのか、身体が重くなることはなるが、意識を失うというところまでは行かない。なんとか間に合い、全裸で布団に横たわる輝彦。体中から、まさに脱皮するようにボロボロと滓が落ちていく。  それほど時間がかかったようには思えなかったが、時間を見るとやはり小一時間が過ぎていた。  水仙はもう慣れたもので、すでにタオルを絞って待っている。それを見て水仙の母も楽しそうに、風呂場から持ってきたのか、盆の上に置かれた、湯の入った桶でタオルを絞っていた。 「ごめんなさいね、大浴場、今掃除入っちゃってるから、よかったら部屋のシャワー使ってくださいな」  ペコリ、と頭を下げ、浴室へ向かう輝彦。その輝彦が聞こえぬ間に、母は水仙に言った。 「いい子ね。女の子になっちゃうのは残念だけど・・・大事にしなさいよ」  顔を赤くしてうなずく水仙。
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