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<6章>
「長らくのご乗車、ありがとうございました」
車掌のアナウンスと共に、列車が減速する。川を渡り、列車は金沢のホームへと到着した。
(なんとかここまで来たな)
ホームから階段を降り、改札を抜ける。スマホの地図で見たところ、美織の家は駅よりも海の方だったはずだ。
(歩いて、一時間か一時間半ぐらいかな)
駅の北側へ出ると、彼は綺麗に整備された駅前をそのまま北に向かって進んだ。雲の合間に日が差す感じの天気であったが、少し蒸している感じがした。
交通量はそれなりに多いようだったが、人通りは少ない。幹線道路らしき道の広い歩道を、彼はひたすら北へ向かった。
ぐぅぅぅぅ、不意に、腹が鳴る。
(そういえば、朝ごはん食べたきりだったっけ)
旅館でかなりしっかりした朝食をとったとはいえ、すでに昼を回っている。と、その彼の視界に、見慣れた看板が目に入った。
(金沢って、思ったより都会なんだな)
神戸にもある回転すしチェーンの看板が、彼を呼んでいるように見える。丁度昼時なこともあり、車の出入りも多い。彼は、一休みしてそこで昼食をとることにした。
一人ということもあり、カウンター席に通される。足元にその大きなカバンを置き、彼は慣れた手つきでタッチパネルを押す。が、その手が不意に止まる。
(あといくら残ってたっけ?)
同じ店には母に連れられて何度も行ったことがある。いつも席について、母よりも先に好きなものをタッチパネルから注文するのだが、だいたい頼むものは決まっていたとはいえ、彼の食べた皿の数は母の倍ほどになる。が、彼は今さらながらあまり皿の数を気にして食べたことはなかったことに気づいた。
(結構な値段だよな・・・)
今さらのように思う輝彦。財布の中身は、いつも彼が食べている皿数分を食べると空になってしまう。彼は控えめに吟味して、タッチパネルを操作した。あっという間に、「予算」分の皿数に達してしまう。
やがて、そのタッチパネルから注文した皿が彼の元にやってくる。最初にまとめて注文したためか、それは次々と回ってきたため、一瞬彼のカウンター席は皿で一杯になったが、それも一時のことで、あっという間にすべての皿が空になった。
(この金額だとこんなものか・・・・母さんごめんよ今まで)
そんなことを考えながら、会計ボタンを押そうとした時だった。
ブルブル、と彼のスマホが震えた。父からの、メッセージではなく電話だった。
店内なのは気になったが、彼は電話に出た。
「もしもし」受話器の口側を手で抑えながら話す輝彦。
『おう、彼女会えたか』
「なんだよ、まだ。今飯食ってる」
『そうかそうか。で、今どこだ?』
「金沢」
『ビンゴ!金沢のどこだ?』
「回転ずし屋」
『だからどこの回転ずしだよ』
「駅から二、三十分歩いた感じ」
『駅のどっち側だ?』
「え?」よくよく聞いていると、かなり具体的な場所を聞かれていることに輝彦は気づいた。
「たぶん北側」
『だいたい分かった。まだ飯食ってるのか?』
「食い終わったとこだけど」
『じゃあ、店出とけ。たぶん十分ぐらいで行く』
「え、ああ、ちょ」一方的に電話が切れる。
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