<6章>

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 そして、きっかり十分、とはいかなかったが、しばらくすると店の駐車場に一台の見慣れたSUVが滑り込んできた。車を止め、車から降りてくる父、雅彦。 「何しに来たんだよ」 「うるせぇな、こっちも暇ちゃうねんで」 「じゃあ来るなよ」 「おめーの用事さっさと片付けた方が話が早いやろ」  笑いながら言う雅彦。だが、輝彦はその雅彦の笑う姿に、いつもほどの元気がないことを見て取った。 「あのさ」 「なんや、さっさと乗り。人がせっかく休み取って来てやってん。まあ、母さんには内緒な」  車に乗るように促す雅彦。輝彦は後ろの席にカバンを置くと、助手席に乗り込んだ。 「場所はわかってるのか?」 「住所はわかる」 「さっさとナビ入れろ。さすがに俺も金沢は土地勘無いからな」 「の割にはすぐ店分かったやん」 「スマホで回転すし入れたら大体出てくるやろ」 「はいはい」聞き流しながら、カーナビに住所を入れる輝彦。雅彦は、家のSUV車を現場に持って行っており、家に帰ってくる際も、通常の公共交通機関の料金を会社に貰い、車で行き来していた。家にはもう一台軽自動車があり、それは母が乗っている。  家族で遠出をする際は、ほぼ常にそのSUV車で出かけるため、運転以外のナビやステレオなどの操作については、輝彦はひととおりわかっていた。 「出た。十五分ぐらいらしい」 「わかった」  駐車場から車を出す。天見父子のSUV車は、金沢市内を海の方へ進んだ。
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