<6章>

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 彼は、それが何を意味するのかすぐには理解できなかった。  美織の母に通された畳の部屋には仏壇があり、その仏壇の横に、綺麗な包みに包まれた箱のようなものが置いてある。そしてその横に置かれている写真立てに入れられた写真・・・・  それは、美織の写真に間違いなかった。そして、一緒に置かれているいくつかのものと、スマートフォン。 (え、どういうこと・・・?!)  立ち尽くす輝彦に、美織の母がゆっくりと話し始めた。 「アルバイトに行く途中でね・・・飛び出した子供を避けようとした車に、跳ねられて・・・・」 「跳ねられて、って・・・」  呆然とした顔の輝彦に、写真の中の美織は微笑みかけている。 「あの子、張り切ってバイト行っていたの。夏休みには神戸に遊びに行くって」  発作とは違う気がしたが、身体から力が抜けていく。ガク、とついた膝の上に、何かがぽたぽたと落ちた。それはどうやら、涙だった。 「でもね、神戸に行くって言いながら、出てくるのは輝彦くん、あなたの名前ばっかり。ごめんなさいね、こっちへ来さえしなければ・・・・」  顔を覆ってすすり泣く美織の母。輝彦の視点が、涙で定まらない。 「そうね」その美織の母は泣きながらそのスマホを手に取る。 「見ることはないと思っていたけど・・・美織ちゃん、天見君、来てくれたわよ」そう言いながら、スマホの電源を入れる美織の母。画面が立ち上がると、そのスマホがブブ、ブブ、と震え始めた。画面に次々と表示される”新着メッセージがあります”の文字。そして、輝彦の名前。未読になっていたメッセージが流れるように表示されて行く。  慌ててスマホを取り出し、メッセージの画面を開く。その画面の未読メッセージが、一瞬にして既読に変わった。 (今、やっと届いたんだ) 「こんなにたくさん・・・ごめんなさいね。もっと早くお知らせすれば」  美織の母は、涙を流したまま頭を下げる。輝彦は、答えることもできずに膝をついて、スマホの画面から顔を上げることもできなかった。そのスマホの画面にぽたり、ぽたりと涙の粒が落ちる。 「実は、ボク、病気で」断片的に何とか言葉を絞り出すが、自分のことしか出てこない。 「きっと、美織が呼んだんだと思います」美織の母がいう。そこからあとは、言葉にならなかった。嗚咽を洩らし、輝彦は泣いた。
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