<6章>

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 輝彦が眠っている間に、彼の身体は変化を続けた。桜田医師が言ったとおり、発作の間隔は、今やあってないようなものになっていた。眠る前の発作のように、一気に肌の入れ替わりが続いたかと思うと、しばらく落ち着きまたそれが始まると言ったように、小休止をはさみながら彼はその姿を変えていった。  珠江と雅彦は、時折その粉を片付けながらその様を見守った。どうやら発作が落ち着いたように思えたのは、明け方のことだった。  粉まみれになったシーツをゆっくりとめくる。その下に、やはり、その身体の一部分であった滓、粉に半ば埋もれるように、輝彦は眠っていた。  手を出そうとした雅彦を制し、珠江がゆっくりと、手のひらでその身体に付いた滓を払い落としていく。  滓の下から、白い肌が姿を現す。そしてそこには、形の良い乳房が存在を主張していた。さらに滓を払い落としていくと、徐々にその姿が露わになっていった。 「お父さん」珠江が一言いう。雅彦はうなずくと、目を押さえながら部屋の向こうに行った。  やがて現れたその姿に、珠江は「発作」が完全に終息したことを悟った。 「テル」つぶやく珠江。  それが聞こえたのか、輝彦はゆっくりと目を開いた。 「終わったみたいよ」  珠江の言葉に、彼は上半身を起こすとゆっくりとその身体を見回した。  はっきりとわかる乳房と、その頂部には明らかに男性のものではない突起物がある。そして・・・・  そして、男性のシンボルは、完全に消失していた。かつてそれがあったと思しき場所には、繁みに隠れるように、その裂け目があった。 「終わったん、やね」珠江に応えるようにつぶやく輝彦。部屋の向こうでは、雅彦が泣いていた。 「お父さんたら・・・お父さん、あんたが生まれた時も、ああやって泣いとったんよ」  そう言いながら輝彦を抱き寄せる珠江。 「うるせえ」雅彦はそう言い返すと、その珠江の上から二人を抱きかかえた。
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