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しかし・・・・
翌日、輝彦は自転車を飛ばしていたが、駅の手前の交差点のところで、それが目に入った。
小さな女の子が、今にも泣きそうな顔できょろきょろとしている。周りには誰もいない。
(迷子かな?)
思わず自転車を止めて声をかける。
「どうしたの?」
すると、今まで我慢していたのか、女の子は大粒の涙をぼろぼろと流し始めた。
「ままがいなくなった」
そのままおんおんと泣き出す女の子。
「ちょっと待ってな」輝彦は困った顔をしてスマホを取り出した。時刻は一時過ぎだ。確か駅前に交番があったと思いながら少し思案して、彼は念のため110番通報することにした。
「もしもし」
『どうされましたか』
「あの、たぶん迷子なんですけど」
一通り説明すると、電話の向こうの相手は、その場で待っていてくれと電話を切った。
しばらくして、警官が現れる。ホッとしたのも束の間、輝彦は警官に同行を求められた。仕方なく、自転車を押して交番まで行く。
交番の時計には、一時二十五分と表示されている。
「あの、急ぐんですけど」たまらず言う輝彦。
「いや、念のため」そう言うと警官は書類を取り出す。と、その時だった。
「カナちゃん!カナちゃん!」
その声と共に女の子の母親らしき、もう一人赤ちゃんを抱っこ紐に入れた女性が現れる。
「ままー!」大泣きのまま、女性に飛びつく女の子。
「お母さん?」警官が確認する。
「すみません、ちょっと目離してしまって」女性も、疲れ切った顔をしていた。
そのやり取りを聞きながら、輝彦は別の警官に聞いた。
「もういいですか?ホントに急ぐんです」
うなずく警官。それを聞くが早いか、輝彦は交番を飛び出した。が、
「ちょっと君!自転車ここに置いてっちゃ困るよ」
(あー!)
焦りと苛立ちを隠せぬまま、輝彦は自転車を押し自転車置き場へ走る。そして階段を駆け上がり改札へ向かった。電光掲示板には、次の電車は十三時三十七分と表示されている。
彼は慌ててスマホを取り出す。
(RRRRR・・・・・RRRRR・・・・)
『もしもし』
「ごめん!今改札来た」息を切らせながら言う輝彦。
電話の向こうから、電車が接近する旨のアナウンスが聞こえてくる。
『ありがとう。でも、もう電車乗るから』
「ごめん」
『ううん。来てくれただけでうれしいわ』
「あのさ、気い付けてな」
『うん。ありがとう。あのね』
「何?」
『高校卒業して、もしあたしがこっちの大学来れたとして』
ガー、電車がホームに入って来た音だ。
『その時、天見君彼女おらんかったら』
ドアが開く音。手で電話を覆っているのか、少し曇った音になると共に彼女が早口になる。
『その時は彼女にしてもらうから!じゃあ、乗るね』
一方的に言って、電話が切れる。
輝彦はしばしそこに立ち尽くした。その電車に乗っていたと思われる乗客たちが階段を上がってきて、改札を通過していく。
(なんだよ、それ)
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