バイオハザード

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バイオハザード

非常時のマニュアルがある。おおよそ生物・微生物研究所ではどこにでも存在するルール。生物災害(バイオハザード)の恐れがある汚染体は処分するのが決まりだ。それは液体窒素で凍結するか、直ちに焼却するか、だ。 「時間がない、凍結だ!」 教授が焦った顔でそう指示を出した。真琴が液体窒素のボンベが乗ったカートを押してくる。 「待ってください教授!いまこいつに刺激を与えたら予想もつかないことになります!とんでもないことが起きるかもしれません!」 「なにを言っているんだ!いまこれを処分しないと取り返しのつかないことになるんだぞ!そこをどきたまえ!」 「和也さん、気持ちはわかるけど危険なの!そこをどいてちょうだい」 真琴と教授は力ずくで俺を押しのけ、電子顕微鏡にあるコネクターに液体窒素のボンベのノズルをつないだ。 「これでこいつは死ぬ」 教授はそう言った。冷たい言葉だと俺は思った。 「まあβ₋503の細胞はまだあるし、こんどは失敗しないようにすればいい」 自分の過失を忘れたかのように教授は言った。まあそのときは俺はもうここにいないんだろうな。だからつい悔し紛れに真実を言ってやった。こいつにまつわるおそろしい真実をね…。 「あ、言い忘れていましたが、その細胞はじつに特殊な細胞で、細胞自体個々に電磁波でつながっているんですよ」 「なんだと?」 教授がおかしな表情で俺を見た。おまえの古い頭でこれが理解できるかな? 「細胞どうし離れていても、互いに情報の伝達ができるんですよ。電磁波の刺激によって。教授が持ち込んだスマホの電磁波をいまごろそいつらは刺激としてとらえ、分析し、そしてそれをきっかけに発芽します。ほら、もう培養槽から…」 培養槽は泡立っていた。かなりの熱の放射もある。異常な細胞分裂を起こしているんだ。 「いかん!装置の電源を切れ!」 「無駄です教授。もうそいつらを止められる者はいません。なぜなら俺が、そうプログラムしたからです」 「な、何を言っているんだ!いいからどうにかしろ!」 「止められる者はいないと、いま俺は言いましたよね?それは俺も該当するんですよ」 「こいつ…」 見る間に培養槽の肉塊は変化していく。それは大きく、そして培養槽自体をなかから破壊しようとしているのだった。
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