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「俺も、あの頃みたいに過ごしたい。……事故も、なにもかも全部悪い夢で……目を覚ましたら、あの頃に戻ってて」
自嘲するように、彼は下を向く。
「都合の良いことばかり考えてちゃ、ダメだな。ちゃんと、自分の罪に向き合う必要がある。……でも、俺はお前に、悠人に出会えて、本当に」
不意に、言葉を途切れさせる彼。
「和真?」
声をかけると、彼の手からぽろりとアイスが落ちる。それに気づく様子もなく、彼はこちら体を傾けてきた。
顔を上げると、和真はどうにも眠っているようだった。
そう。まるで本当に、眠っているようで。
「…………同時に死ねるようにって、言ったじゃん」
知っている。和真は昔からこういうやつだ。
「アイス勿体ねぇよ。せっかく買ってきたのに。……ほんっとお前、最期まで身勝手だな」
穏やかな顔で眠る彼に、文句を言ってみる。
アイスを食べながら、誰もいない公園を見渡した
空が、あまりにも真っ青だ。
「ずっと、死んでも。お前の側にいるから。……また、生まれ変わったら。こういう風に、2人でやりなおそうぜ」
彼の動かぬ手を握りしめ、目を閉じる。
足元には蝉の死骸が1つだけ、転がっていた。
滲む汗、落ちる命。溶けゆくアイス、見当たらない入道雲。
そうか。終わるんだ。
あの日、止まってしまった青春が。
今、この瞬間に。命と蝉の音と共に。
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