夏の公園で、ふたりでアイスを

13/13
前へ
/13ページ
次へ
「俺も、あの頃みたいに過ごしたい。……事故も、なにもかも全部悪い夢で……目を覚ましたら、あの頃に戻ってて」  自嘲(じちょう)するように、彼は下を向く。 「都合の良いことばかり考えてちゃ、ダメだな。ちゃんと、自分の罪に向き合う必要がある。……でも、俺はお前に、悠人(ゆうと)に出会えて、本当に」  不意に、言葉を途切れさせる彼。 「和真(かずま)?」  声をかけると、彼の手からぽろりとアイスが落ちる。それに気づく様子もなく、彼はこちら体を傾けてきた。  顔を上げると、和真はどうにも眠っているようだった。  そう。まるで本当に、眠っているようで。 「…………同時に死ねるようにって、言ったじゃん」  知っている。和真は昔からこういうやつだ。 「アイス勿体ねぇよ。せっかく買ってきたのに。……ほんっとお前、最期まで身勝手だな」  穏やかな顔で眠る彼に、文句を言ってみる。  アイスを食べながら、誰もいない公園を見渡した  空が、あまりにも真っ青だ。 「ずっと、死んでも。お前の側にいるから。……また、生まれ変わったら。こういう風に、2人でやりなおそうぜ」  彼の動かぬ手を握りしめ、目を閉じる。  足元には蝉の死骸が1つだけ、転がっていた。  滲む汗、落ちる命。溶けゆくアイス、見当たらない入道雲。  そうか。終わるんだ。  あの日、止まってしまった青春が。  今、この瞬間に。命と蝉の音と共に。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加