夏の公園で、ふたりでアイスを

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 そんな彼に思わず、 「俺は、取り返しのつかないことをした。……もう生きる必要なんて」 「だからバカっつってんだよ! 家族とか、将来とか、もっと色々あっただろ? オレよりも大切なものが、たくさん……自分とか、自分の家族のために使うべきだろ、その力は」 「悠人は、家族と同じくらい。……大切だったから」 「んだよ……わけ分かんねぇ……」  悠人はシーツを力の限り握りしめ、うつむいてしまう。  窓の外から少しばかり陽が差し込んだ。夜明けだった。  悠人は目元をこすり、自らを繋ぐ管を外しながら呟く。 「和真(かずま)。もう少しだけ、お前の寿命をくれ。自分で分かる、オレは1日も持たない。……同時に2人で、死ねるようにしたい」 「なんで」 「……一緒に、お前の罪を背負うよ」  泣き()れた顔で微笑む彼に、首を振る。 「なに、言って……!」 「大丈夫、一緒だ。ほら、手を出して」 「ダメだ、俺はたくさんの人を殺した、たくさんの人を泣かせた。1人で誰もいない山奥とかで死ぬべきだ」 「それはオレが許さない。……なぁ、和真」  優しい声だった。涙を浮かべる悠人の瞳は、朝陽を浴びて(きら)めいている。その顔つきは15歳の少年のままだった。  そっと、彼に抱きしめられる。 「今まで、よく、がんばったな」 「……なん、で」  何故、責めてくれないのだろう。  俺を裁けるのは、お前だけなのに。  涙が出るほどの温かさが、肌に染みる。  嗚咽(おえつ)して顔をうずめていると、ぽつんと悠人が問うてくる。 「和真はさ。……最後に、何したい? ほら、今日が最後なんだからさ」 「…………さいご、に……」  しばし沈黙し、涙を落とさぬように目を閉じた。 「……公園で、アイスが、食いたい」
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