夏の公園で、ふたりでアイスを

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 ――――『俺、医者になりたい。この能力の使い道は分からないけれど。人のために役立てたい』  中学生の頃、和真はそう言っていた。その言葉は嘘ではなかったはずだ。  初めて話しかけた10歳の頃。野良猫を殺してしまった和真は酷く傷ついたような顔で泣きじゃくっていた。  とにかく泣き止ませたかった。だから笑顔で話しかけた。  和真は本当に優しい奴だ。死んでしまう愛猫(あいびょう)の命に対して、しょうがないと思えない。助けたいなんて思ってしまう。でも命は有限だ、優しい彼の望み通りにはいかない。  そんな彼に備わった特別な能力。正直、酷な運命だと思った。  オレが、和真を支えてやらないと。  彼にとって、あの能力はコンプレックスのようなもの。それを知っているのも理解しているのも、オレだけだ。  和真がオレの命を延ばすために、能力を使うような事態も避けなければ。  そう思っていたのに。  ――――驚くほど突然に、命の終わりはやってくる。  トラックに跳ねられた時。  オレは間抜けにも、和真に能力を使わせてしまった。  そして眠った。眠り続けた。  眠っている間、時々誰かが話しかけてきたのを覚えている。  家族が泣いていたこと。医者が長くないとオレに告げたこと。和真が何度も寿命を延ばしてくれたこと。  その度に「ごめん」と涙を(こぼ)していたことも。  色んな人の寿命を奪ったこと。本当は責めるべきなのだと思う。  でも。オレだって最期は幸せに過ごしたい。お前にも少しは笑って欲しい。  だからせめて、一緒に罪を背負う。最期を共に過ごして、死んでからも一緒に地獄に落ちてやる。  それが。オレなりの罪滅ぼしだ。 (……30になって老けても、変わんねぇな)  となりに座る彼の横顔を見つめる。  昨日は嵐で辺り一帯が停電していたらしい。安いアイスを手に入れるために隣町まで車を走らせるのは意外と面倒だ。  でも。車内で彼と何気ない話をするのは楽しかった。
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