夏の公園で、ふたりでアイスを

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 夫婦に触れ、尽きるまで寿命を吸い取った。  そして、死にかけていた悠人に与えた。  俺の身も危なかったらしいが、自分のことはどうでもよかった。  延命した悠人は、応急処置を経て死を免れることが出来たのだ。  ――――だが、容体が安定しても。悠人が目を覚ますことは無かった。  きっと。悠人の為に命を吸い取った夫婦にも家族がいただろう。彼らの最期を看取りたかった人がいただろう。  悠人を優先し、それを潰したのは。  俺だった。 ――――『すげぇ能力じゃん。きっとお前は色んな生き物を救う為に生まれてきたんだよ』  悠人の言葉が(よみがえ)る度にうずくまった。  ごめん。  俺はお前がいないとダメなんだ。  コバンの為に野良猫の命を奪い続けていた頃と同じように。  お前を生かす為だけに医者になった。  他の患者の命を吸い取ってお前に与えて。  それだけの繰り返しの人生で。  ――――あの夏の日、自転車を漕いでいたのが、お前だったなら。  こんなことには、ならなかったのだろうか。 「……俺たちは、ただ」  病室のベッドで眠り続ける、悠人の手を握りしめた。 「いつものように、公園でアイスを食いたかっただけなのにな」  青春という名のひと時を、大切にしようとしていただけ。  本当にそれだけだ。あの日、俺たちが望んだものは。
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