夏の公園で、ふたりでアイスを

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 自分の寿命を与えられると知ったのは、悠人(ゆうと)が眠り続けてしばらく経ってからだった。  俺の寿命もいくつ与えたのか覚えていない。悠人の体は日に日に衰弱していく。健康な人間の3日分の寿命が、彼の1日に満ちるかも分からない。  知っている。この行為の先に、幸せなど無い。 「他人の命を奪うのは、もう……でも俺が死んだら。悠人の命を伸ばせる人間がいなくなる」  首を振る。1人きり、談話室でコーヒーをすするも味はしない。  医療を学んだからこそ、分かる。  悠人はもう治せる状態ではなく、2度と目を覚まさぬことも。 (ほんの数日の寿命が尊いことも、知った)  1日でも長く生きたいと願う人たちは、数え切れぬほど存在する。  病魔に苦しむ人たちは、特に。 「考えるな、考えても、もう……」  頭を抱えると、ざあざあと雨風の音がやけに耳についた。  今夜は夏の嵐が来るとは聞いていたが、あまりの強風に窓へ目をやる。  眉をしかめた。嫌な予感がよぎったためだ。  とたん、電灯がチカチカと点滅する。ぶつんと部屋が暗くなる。  立ち上がって談話室を出ると、1人の看護師が駆け寄ってきた。 「先生! 停電です!」 「大丈夫、非常電力がある」  そう看護師に応えている間に、院内は明るくなった。窓の外を伺うも、周囲の建物は明かりが消えたまま。やはり非常電力が稼働したようだ。 (半日経っても復旧しなかったら、まずい)  ここは田舎の古い病院、非常電力の使用可能時間は12時間程度。それが切れると、悠人のように医療機器で生き延びている患者が命を落としかねない。  首を振る。悠長に考える暇などない。患者を見回り、電力を節約し、外部や患者の家族に連絡を取る。  夏の嵐の中、俺たちのいる病院だけが煌々と光り続けた。
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