夏の公園で、ふたりでアイスを

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 ***  午前5時。非常電力の限界が近い。根本的な停電は回復しない。  院内は混乱に満ちている。  俺も。 「……もう、限界だな」  騒ぐ周囲をよそに、病院内の廊下で立ち止まる。  そろそろ本格的に停電する。 (電力が数分止まっただけで亡くなる患者のリストは頭に入っている。……その人たちの命を、悠人に)  もうとっくに人の道を外れているのだ。  迷わない。  電力が止まり、限界を迎える患者が出てきた。  彼らが苦しむ前に、奪う。  苦しむ前に、奪う。  繰り返す。  この能力を知っている者は、悠人(ゆうと)の他に誰もいない。  誰も俺を裁けない。  裁いてくれと叫んでも。俺は裁いてもらえない。  1人で罪を背負い、きっと地獄に落ちる。  たった1人、孤独な地獄に。 「ごめん、悠人(ゆうと)。……俺に、付き合わせて」  眠り続ける悠人に触れ、他の患者たちの命を与えながら言の葉を落とす。  天気は回復してきている。数時間もすれば電気も復旧するだろう。  それまで悠人の身が保てればいいと思っていたが。 「無理、か」  悠人の体は衰弱している。いくら寿命を与えようとも30分と持たない。  十分に成長出来ぬまま俺のせいで生きながらえてしまった彼の顔つきは、まるで少年のようだった。 「なぁ悠人。俺、どこで間違えたんだろう。……生まれてきたこと自体が、間違いだったのかな」  こんな能力、使えなければ。お前の死を受け入れることが出来たのに。  お前と出会わずに、済んだのに。 ――――『すっげー力持ってんじゃん! いいなー! 漫画の主人公みたい!』 「……悠人なら。正しい使い方、出来たんだろうな」  彼の頰に雫が落ちる。そうだ、今宵(こよい)が引き時だ。  でも。この気持ちだけは変わらない。 「俺より長生きしてくれ。お前は俺より、生きるべき人間だった」  彼の(ほお)に触れ、目を閉じる。  親友の佐久間悠人(さくまゆうと)は。俺の人生の全てだ。  この命を捧げても構わないと思うほどに。  だから。  ――――呼吸が苦しくなる。与えるほど体が疲弊(ひへい)し、生気が抜ける感覚を覚える。痛みはないが、自らの死の近さを悟る。 (……このまま)  夏風が吹き抜ける音。自分の呼吸。滲む汗。震える手。  温かな、彼の手のひら。  ふと、聞こえる声。 「――――なぁ、和真(かずま)
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