夏の終わり

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 ノマーズ高校0ー3史上最強学園  ノマーズ高校野球部、夏の地方大会1回戦敗退。  この瞬間、俺たちの最後の夏が終わった。  そして俺たちは学校に戻る為にバスに乗り込む。 「終わったな。俺たちの夏」 「いやいや、まだ終わってねえよ。だってオレまだ海行ってねえし」 「そういう事じゃねえよ」  バスの中が笑いに包まれる。 「でも今日試合出来て、史上最強学園相手に3失点って奇跡だよな」 「確かに」 「俺らが1年の時、野球部3人しかいなくて、俺ら入れても5人だったしな」 「そうそう。で、オレとお前で部員集めないとってなって、必死で声かけまくったり、ビラ配ったよな」 「あの時のお前ら必死過ぎで、入ってあげないと可愛そうかなってなったわ」 「確かに。おれなんか野球した事ないのに、それでもいいから入ってくれって。で、仕方なく入ってさ」 「でも本当にお前らが入ってくれて助かったよ」 「で、少しずつ練習も出来る様になってきて、でも、練習試合組んでもいつも大差でボロボロでさ」 「相手チームもびっくりしてたよな。えっ、まだやるの?的な感じで」 「そんな弱小野球部だったけど、お前ら後輩も入ってきてくれて、より練習が出来る様になって」 「流石に人数が少なかった時は、すぐ自分の番が回ってきて休む間もなく、しんどかったよな。あー、ようやく順番待ちの間、休めるようになったって思ったわ」 「あの時はさ、俺、練習楽しいって思ってて、それだけで良かったけどさ、」 「こうして最後の夏、勝てずに終わった後にさ、こんなこと思うのもどうかしてるかもしれないけどさ、」 「もっと、勝てるような練習しとけば良かったなって」 「俺は野球を楽しめたらいいと思ってたけど、やっぱり勝ちたかったな。悔しいな」  泣くつもりなんてなかったのに、自然と涙が零れた。  それに釣られて、他の部員も泣きだした。  すすり泣く音がこの空間に充満する。 「オレも、お前らともっとやりたかったし、勝つ喜びを味わいたかった」 「なあ、もう終わった俺らと違って、3年じゃないお前らはまだチャンスがある。だから頑張って練習して、勝って、俺らが味わえなかった皆で喜ぶ瞬間を絶対味わえよ」 「「はい!」」  俺らの夏の終わりは、納得行くものではなかった。  それでも俺らはこの夏を忘れない。楽しくて、仲間と笑い合って、悔しくて、仲間と泣き合って。  1回戦負けなんて、漫画だと無名高校のモブキャラ連中みたいなもんだろうし、誇れるものでもないし、情けないのかもしれない。  でも、それでも、俺らにとって、この夏の出来事は宝物だ。  俺らの夏は終わったけど、俺らの物語は終わらない。この夏は、俺らの物語の大切な1ページになった。  それを胸に、俺らはこれからも前へと進んでいく。
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