第一章 噂

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 カフェで食事をしている最中、ちらちらと若い娘がこちらを見てくる。そちらへ視線を向け、目のあったニコローズ――ニコは彼女たちへ軽く手を振った。途端に小さく、きゃーっと悲鳴が聞こえてくる。 「マメだね、お前も」 「そう? レンも手ぐらい振ってあげなよ」  おかしそうに笑うニコにため息をつき、ソーセージを口に運んだ。ニコはああ言うが、俺に手を振られたところで彼女たちは困惑するだけだ。だいたい、そんなの俺には似合わない。  食事を続けながら、目の前に座るニコを見る。蜂蜜酒のような金髪に、澄んだ空のような蒼い瞳。少し丸い顔にはそばかすが散っていて、それが彼を年よりも幼くみせている。俺よりは小さいとはいえ背も低くなく、笑顔がチャーミングな彼は女性たちを――国民を魅了していた。  一方の俺は、黒髪黒い瞳、威圧感を与えるように無駄に背が高い。さらにかけている銀縁スクエアの眼鏡が冷たくみせていた。いや、笑わない俺はそう思われているのだろう。軍の中でも「機械人形」だの「冷血参謀」だの陰で言われているのは知っていた。 「このあと、どうする?」 「どうするって、大統領がそんなにふらふらしてていいのか」
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