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第一章 噂
――標準歴一六六五年冬。
「僕を殺してくれ」
アイツが、泣き笑いで俺を見る。そんなの、できるはずがない。嫌だと首を振り、後ずさる俺にアイツは迫ってきた。追い詰められ、背中はドアにぶち当たった。
「君に、殺されたいんだ」
持っていた拳銃をアイツが俺に握らせる。投げ捨てようとしたが、そうさせないようにアイツは上から力一杯押さえつけた。
「それが、一番いいって君だってわかってるだろ?」
怯え、首を振るだけしかできない俺の手を握り、アイツは銃口を自分の身体へと当てた。
「誰でもない、僕は君に殺されれば幸せだよ」
にっこりとアイツが笑う。どうしてこんなことになっているのだろう。俺はただ、アイツの幸せを願っているだけのはずだったのだ。どこで選択を間違えた? いくつもの分岐点が頭をよぎっていった――。
アイツ――ニコローズ・スティングナーが大統領になったのは、二十八歳のときだった。
「……ねえ」
「……うん」
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