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 彼岸花が蕾を見せ始めた九月、家から程近い神社の軒下で、黒猫のクロは変わり果てた姿で発見された。  クロは小学生の頃、雨宿りをしていたその神社で見つけ、必死に親に頼み込んで飼わせてもらった弟みたいな存在だった。  中学で虐められて泣いた日も高校で彼氏が出来て有頂天だった時も、仕事で辛いことがあった日も、家に帰ればクロがいた。  近頃は寝てばかりで、そろそろ覚悟をしなければと思っていた矢先、何かを追い掛けるように外に飛び出したクロは、それっきり帰って来なかった。  猫は死期が迫ると居なくなることがあると聞いていたが、まさかクロがそんな事をするとは思わなかった。  見つけてくれたのは近くの子供達で、キャラ物のタオルに包まれて大切に抱えられて帰って来た。 「ありがとうね。クロを連れてきてくれて…」  泣きじゃくる子供たちを慰めながら、私はクロの亡骸を受け取った。  車にでも轢かれてしまったのか身体には血が滲み、苦しげな表情で顔が固まっていた。  私でも首輪の名前がなければ、クロだと認識できなかったかもしれない。  クロは道路に面した窓辺から外を眺めるのが好きで、オス猫の割には声がとても高く、ミィと愛らしく鳴くこともあって登下校時にその傍らを通る子供たちから一際愛されていた。  居なくなってすぐにどうしたの?見つかったの?と子供達が毎日のように尋ねてきて、迷い猫の張り紙まで作ってくれた。  私自身はクロの年齢から覚悟が出来ていたけれど、こんな姿で冷たくなったクロを見つけてしまった子供達はショックだったに違いない。 「皆が良ければ、お墓を作るの手伝ってくれる?」  子供達の気持ちの整理の為にも、そう提案すると子供達は泣きながらも頷いて賛同してくれた。
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