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「先輩、お待たせしました」
「来てくれて、ありがとう」
一応、背を低くして旧校舎に来た僕は、声も小さくして先輩と合流した。今から始まる冒険に僕が興奮しているせいなのか、月明かりに照らされた先輩の笑顔がドキリとするほど綺麗に見えた。
「入り口の鍵は開けてあるわ。得意なの。内緒よ。さ、行きましょ」
「あ、外を一周してみてもいいですか?」
「もちろん。リブラくんが納得するようにして」
先輩は僕にウインクをした。
僕たちは背の高い草に覆われた外周を見て歩いた。一ヵ所、教室の扉二枚分ほどの壁に蔦が密集している場所があったが、どうやら立てかけられた廃材に絡まり伸びていったようだ。その壁の両脇には、エアコンの室外機が草に埋もれていた。
「外周はこんなところね。何かわかった?」
「うーん。特に今は。中に行きましょう」
僕と先輩は、いよいよ旧校舎の一階へと侵入した。
「ダメ。外から見えちゃうわ」
懐中電灯を取り出した僕の手を先輩が押さえた。
「今夜も月が明るいから、慣れれば差し込む明かりでも大丈夫。草の影が、ちょっと邪魔だけどね」
片側の窓から廊下に伸びてユラユラと動く草の影は、得体のしれないモノに見えなくもない。でも、そういった類を信用していない僕は錯覚なんて起こさない。
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