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「お母さん、協奏曲って知ってる?」
「えっ、バイオリンコンチェルトとかピアノコンチェルトのこと?」
「コンチェ? 英語でそう言うの?」
「英語かイタリア語かわからないけど、そうね。どうして?」
普段音楽というとロックやポップスしか聞かない清治のその質問に、母は探るように問いかけたが、息子は「べつに。ちょっと訊いただけ」とはぐらかした。
親の勘で母は思春期の芽生えが絡んでいるのかと判断し、それ以上追究しなかった。
「明日、お母さんお父さんのお墓参りに行くけど、清治も行く?」
父の命日8月31日は、3日後だった。平日は仕事があるので、前倒しで行くらしい。
「行きたいけど、9月の最初の休みに1年目の法事があるんだよね。それに行くから……」
「1周忌ね。そう。わかった」
父の命日、清治は高台の公園に向かった。
それはあらかじめ決めていたことだったが、新たにこの間で会った少女と会えるかもしれないという期待が加わっていた。
数日前、清治は小学校の近くの道で尚人とばったり出くわした。ほんの二言三言言葉を交わしただけで別れたが、尚人は別れ際「学校に来いよ。待ってるからな」と声をかけた。
その気遣いが嬉しかったが、一方でそんな一瞬の会話とはいえ、尚人の心を大きく占めていた美少女と偶然会ったことを言わなかった自分に、清治は後ろめたさを感じた。
秘密にしたいのは清治にとって、それが特別だから。父とセミ捕りをした公園も、少女に対する恋心に似た感情も。
公園に着くと、滑り台などの遊具のある所も人影はまばらで、森に接した広場に行くと、ベンチにポツンと人影がひとつだけあった。
清治はとっさに、その人影があの美少女だと察した。
一体何をしにくるのだろう。
まさか、毎日ではないだろう。
清治が来るのを待っているという考えが一瞬彼の脳裏をよぎったが、それは少女に対する侮辱だという気がして否定した。
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