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「そうだ。ちょっと想像しにくい。で、もう一つ。高速で通り過ぎていった蛇が一回目撃されただけなのに……なんで、“牙が小さい”だの“噛まれても毒がない”なんてのがわかるんだ?」
「!」
まったくその通りだ。誰も噛まれたなんてニュースはない。一瞬通り過ぎただけの蛇、カメラで撮影していたわけでもなし。目の色がルビーのように赤いとか金色の体表だとか大雑把なサイズなんかは分かったとしても――牙のサイズまで、そうそうわかるものだろうか。
ましてや、毒があるかないかなんて分かるとは到底思えない。何もわからないからこそ今、新種発見!なんて大騒ぎしているのだろうから。
「……蛇の目撃情報は、捏造ってこと?実際は、もっと別のところで見つかって、さらに詳細がわかってるってこと?」
私の問に、多分、と弟は頷いた。
「ここからは、俺の推理……というか推測なんだけど。この蛇はきっと新種なんかじゃない。村の人がこっそり飼っていた、違法なペットかなにかだったんじゃないだろうか。それも、極めて毒性が強いタイプの。それが逃げ出してしまって、大騒ぎになった。でも……」
「町おこし、しようとしてたんだもんね。そんな蛇が逃げたってこと、そもそも飼ってた人がいたってこと、バレたら町おこしどころじゃないよね……」
「その通り。だから話をすり替えた。新種が見つかったってことにして、賞金までかけて、村に人を呼び寄せることにしたんだ。で、体の弱いお年寄りや女性、子供なんかはこっそり村の外に一時避難させた。村に残ってる人は、足を噛まれたりしないように彼らなりの完全防備を徹底している、と」
「そ、そんなことしたら!何も知らない人たちが危ないんじゃ……」
まさか、と私はぎょっとさせられる。
どこに消えたか、わからない蛇。もしその蛇が、人間に――というより肉を好むようなタイプであったとしたらどうだろう?あるいは縄張り意識が強く、近づいた人間を積極的に攻撃するタイプならば。
蛇に近づいた人間は、次々と噛まれる。そして噛まれる人間が現れれば、その近くに蛇がいる。捕獲しやすくなる。
あとは、捕まえた蛇の正体を村ぐるみで知らぬ存ぜぬして、“新種だと思った”と国の機関に言い張れば――。
「金を得ると同時に、金より大事な命を守ろうってんだろうな。……村の住人の命を守るため、よその人間の命を盾にして。……俺の予測が当たってるなら、最低すぎる話だ。外れててくれることを願うよ」
「う、うん……」
私は背筋が凍り付くような感覚を覚えながら、テレビの中のリポーターを見つめたのだった。彼女の、オシャレなミュールを履いた無防備な足元を。
謎の蛇に噛まれて死んだ人が出た。
そんなニュースが流れたのは、それから三日後のことだったのだ。
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