0人が本棚に入れています
本棚に追加
短絡的だけど行動力は立派。
「俺さあ、もしかして文才があるのかな。新しい才能を発見されたのかも」
わかりやすく調子に乗っている。いいか、と腕組みをして親友に現実を突き付ける。
「読書感想文で褒められるなんてよくあることだ。優秀賞に選ばれたのなら少しは自信を持ってもいいかも知れんが、斎藤先生個人に褒められただけだろ。それで才能を発見されたって言うのは短絡的過ぎる」
「嫉妬か?」
力が抜ける。よくそこまで突き抜けて考えられるな。
「俺、作家を目指すべきかなぁ。格好良くない? 十代で鮮烈デビューを果たしたりして」
その言葉に一瞬ぎくりとする。しかしおくびにも出さず手を振った。
「宝くじに当たったら何を買おうって考えるのと同じくらい非現実的だな。そんな妄想に浸る暇があったら勉強しろ」
しかし綿貫は聞く耳を持たない。
「どうしよう。文学部とか芸術学部に進路を変更しようかな」
「ちょっと待て。お前、理学部志望だろ。夏休みも終わったのに今から文系を目指す気か? 読書感想文を褒められたくらいで?」
「だって文才が発見されたんだもん。伸ばすしか道は無い」
沸々と怒りが湧く。こちとら色々必死こいているのにどれもなかなか上手くはいかなくて、伸び悩んで苦しい思いをしているのに、A判定を取った志望校を捨てて理系から文系に鞍替えするだと? 理由がごんぎつねの読書感想文を変人の先生に褒められたから?
「ナメているのか。本当にあるかどうかもわからない文才なんぞを信じてさぁ?」
だが綿貫は人差し指を立て、左右に振った。おちょくってんのか。
「実はもう一つ、俺の文才を裏付ける証拠がある」
スマートフォンを取り出した。操作をして、こちらに画面を突き付ける。
「何これ」
「小説投稿サイト。昨日、家に帰ってから小説家へのなり方を調べたの。そうしたらこのアプリがおすすめに出て来てさ。好きなものを書いて自由に投稿出来るんだって。出版されたり、中には映画化された作品もあるらしいよ。早速一本書いてみた。まずは読んでくれ」
溜息が漏れる。その熱量はどこから来るのだ。……褒められたからか。
「面倒臭い。あらすじだけ教えろ」
「短いから読めって。原稿用紙一枚分だから」
スマホを無理矢理押し付けられる。渋々、嫌々、目を通した。
最初のコメントを投稿しよう!