Episode2 遠くへ

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 一通り、事情聴取らしきものをされた後。  初めからそのつもりだったのだろう。ツンツン頭のみっつんが、カマの肩へ腕を回してさらっと告げた。 「じゃ、俺らは両親着くまで待ってるから」  「俺。例のごとく用事あるから」  軽く手を挙げた藤を追って、クルと共に歩き出す。  エレベーターの到着を待っていたら、クルが面倒くさそうに呟いた。 「カマのやつ。あいつ絶対、根に持ってんじゃん……」  一番手に乗り込んだ藤が、左耳の裏を掻きつつ苦笑する。 「あいつ感情の起伏激しいしな。 でも、ま。警官のおっさんに手出さなかっただけ、カマにしてはマシな方じゃん」 「俺もそれは思ったわ」  空を切ったカマの腕を横目に見て、励ましの言葉の次に浮かんだのは、頼むから、その手を振り上げないで欲しいだった。 「あだ名の話なんてさ。ツッチーが一方的にしてたの。聞いてただけなのに……」  下に着いて早々、スマホを手にしたクルが溜め息を吐く。  藤が欠伸を抑えて呟いた。 「スルメイカってあだ名付けられたの。人生初だわ」 「相手がやみつきになる癖があるって言ってたけど?」 「それ聞いて、クルさんは俺のことどう評価したん?」 「『縦に長いのは藤っぽい』って返した気がする」 「なぁ、たなやん。俺、今。喧嘩売られてる?これ」  実際に、現場を目にしたわけではないからか。それなりの明るさを保った二人の会話を耳にして、修はホッと肩から力を抜く。 「意味があって付けてたってことはさ。ツッチーの……ソーセージってのはなんだろうな?」 「「…………」」  どう思うかを訊きたくて、意見を求めたつもりだったのに、途端に辺りが静かになった。 「ちょっ、二人して黙るなよ。俺別に、そういうつもりで言ったんじゃ」  口をつぐんだクルの視線が、修へと向いた。 「イヤ……。俺もわりと同じこと考えてた」 「えっ?クルさん。あだ名の理由って全員分聞いた訳じゃ……」 「ない。……ってか、俺の記憶が間違ってなかったら。ツッチー、自分のだけ。理由を言ってなかった気がする」 「「!!」」  藤と互いの視線が合った。  エロと女の子の話題以外。普段興味を持たない変態が、核心的なことを口にする。 「それってさ。死んだ理由、それなんじゃね……?」 「「……………………」」  あの軽やかなツッチーが、自ら命を絶ちたくなるほど追い詰められたその理由。  カマたちの話によれば、ツッチーは死亡推定時刻の少し前、お姉さんに「お休み」と就寝の挨拶をしていたらしい。  それほどまで、普段通りにしていながら、急に手放した自分の命。 (女の子にも、友達にも。ツッチーは困ってるようには見えなかった。それなのに……)  騒がしさツートップがいないことも相俟って、駅までの道はそれから無言で過ぎていった。
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