Episode1 異変

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 カランカランと鈴の音が鳴るドアを開いて「ごめんね!田中くん!」と、店長に声をかけられた。 「大丈夫ですよ。別に暇してたんで」  嘘ではない。明日提出のレポートも昨日終えて、今日はゆっくり家で動画でも観ようかと思っていたのだから。 「ほんっと、助かる!」  アラフォーのおじさんの感謝を背に、修はカウンター脇からスタッフ専用の入口を抜け、更衣室の厚い扉を押した。 「お疲れ様です」  無機質に並んだロッカーの前で、Yシャツと店名入りの黒いエプロンを身に着けたバイト仲間の真野(まの)さんがいた。 「お疲れ様でーーす」  彼の低音が鉄製のロッカーに吸われる。すぐに無音になった。 (なんかチラチラ見られてる??)  180cmはあるだろう真野さんを、ほんの少し見上げて反応を待つ。 「火曜、先週もシフト入ってませんでした?田中さん」  黒縁眼鏡を拭う彼の眉間に濃く刻まれた皺。自分も眼鏡派なので、修は親近感が湧いた。 「そうなんですよね。また連絡きてたから、つい。ってか、結構視力悪いんですか?」 「嗚呼、はい。つうか、田中さんそんな感じだから、店長に良いように使われるんすよ。ま、自分は助かるんで、良いんですけどね」  同い年なはずなのに、体格や声のせいで五歳くらい年上に見える彼の忠告を、修は素直に受け取ることにした。 「気を付けます」 「別に俺は良いんで」  照れているのか。それともいざという時、修にシフトを代わってほしいのか。 (いや、多分後者だな)  言い出した手前、アドバイスはしたものの、本音では修にこのままでいてほしい。そんな真野さんの思惑が、カウンターへ出る無言の背中から伝わってきた気がした。
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